人生100年時代と言われる現代、老後の資金計画は「65歳からの生活費」だけを考えればよい時代ではなくなりました。
男性の平均寿命は82歳前後ですが、「健康寿命と実際の寿命の差」「要介護期間の長期化」「医療・介護費の上昇」などを踏まえると、90歳、95歳、そして100歳までの資金を見据えた計画が必要になります。
しかし実際には、
・老後資金がどれだけ必要かわからない
・自宅の住み替えやリフォームをすると資金不足が心配
・リバースモーゲージを利用した場合、金利上昇に耐えられるか不安
など、多くの方が将来の不確実性に悩んでいます。
今回の第5回では、シニア世代が「安心して100歳まで暮らすための資金計画」を作るための実践ステップを、FP視点でわかりやすく解説します。
1 100歳までの資金計画が必要な理由
長寿化とともに、老後の資金リスクは大きく3つに分類できます。
● ① 長生きリスク(生存期間の延び)
寿命が伸びるほど、生活費・医療費・介護費の負担は増加します。
● ② 支出増加リスク
年齢が上がると、
- 医療費の増加
- 介護サービス利用の開始
- 自宅の修繕・設備更新
など、支出が増える傾向があります。
● ③ 資産減少リスク
・年金の伸び悩み
・預貯金の取り崩し
・インフレによる実質価値の低下
などにより、老後の資産が予想以上に減少する可能性があります。
これらのリスクを把握したうえで、100歳までの長期視野の資金計画を立てることが安心につながります。
2 資金計画の作り方ステップ(5つの流れ)
Step1:現在の家計を「見える化」する
まずは現状把握からスタートします。
■ 主な確認ポイント
- 年金収入(老齢基礎・厚生、企業年金など)
- 預貯金・有価証券
- 保険(解約返戻金の有無)
- 不動産の評価
- 日常の生活費
- 特別支出(旅行・車・冠婚葬祭)
ここで重要なのは、「支出」を過小評価しないことです。
家計簿がない場合は、過去3〜6ヶ月の銀行・カード明細をもとに算出します。
Step2:今後の支出を「4つの時期」で分けて考える
老後は、支出の内容が年代で大きく変化します。
次の4つのステージに分けて考えると、見通しが立てやすくなります。
① 60〜74歳(前期高齢期)
・生活は比較的アクティブ
・旅行費・趣味費が増える
・医療費はまだ少なめ
② 75〜84歳(中期高齢期)
・医療費が増え始める
・住み替え・リフォームを検討するケースも多い
③ 85〜94歳(後期高齢期)
・要支援・要介護が発生する可能性
・介護保険サービスの利用が本格化
・食費・光熱費は減るが、介護費用が上昇
④ 95〜100歳
・意思決定支援(任意後見契約等)が重要
・入院・施設入居の可能性が高まる
年代によって支出の特色が違うため、ステージ別の見積もりが欠かせません。
Step3:100歳までのキャッシュフロー表を作成する
シニア向け資金計画の核となるのが、キャッシュフロー表です。
■ 作ると見えてくること
- 何歳で資産が尽きるか
- 住み替え費用の負担に耐えられるか
- 金利上昇が生活を圧迫しないか
- 介護費が家計に与える影響
■ 入れるべき項目
- 年金・収入
- 生活費
- 医療費・介護費
- 住み替え・リフォーム費
- 修繕費(5〜10年ごとに発生)
- 不動産の評価額の変化
- 金利上昇シミュレーション(リバースモーゲージ利用時)
FPが行う場合は、
「平均余命だけでなく最長寿命を前提に試算する」
ことが基本です。
Step4:住み替え・制度利用による影響を試算する
住み替えは資金計画に大きなインパクトを与えるため、必ず複数パターンの試算が必要です。
● ① 今の家に住み続けるケース
・修繕費が継続的に発生
・固定資産税や管理費も維持
・介護が必要になった場合の動線を検討
● ② 自宅売却してコンパクト住宅へ住み替えるケース
・購入費+諸費用
・売却益から老後資金の確保
・管理費・修繕積立金の負担
● ③ リバースモーゲージ利用
・変動金利の影響
・相続時の対応
・推定相続人の同意が必要
・金利上昇時の「家計が耐えられるライン」を設定
これらをキャッシュフロー表に反映し、最も無理のない選択肢を検討します。
Step5:最終的には「価値観」と「家族の合意」で決める
資金計画はあくまで判断材料であり、最終的に大事なのは次の2つです。
● 価値観
- 子どもに家を残したいのか
- 最期まで自宅で暮らしたいのか
- 病院・介護施設への移住を前向きに検討するか
● 家族の合意形成
相続トラブルを避けるためにも、第4回で解説した「家族会議」は不可欠です。
計画の数字と生活のリアルを共有し、全員が納得できる結論を目指します。
結論
100歳までの資金計画は、単なる老後のお金の計算ではありません。
住まい・健康・介護・相続・家族関係を総合的に捉え、「人生後半をどう生きたいか」を実現するための設計図です。
大切なのは、
- 現状把握
- 年代別支出の整理
- 100歳までのキャッシュフロー
- 住み替え・リバースモーゲージの試算
- 家族の合意形成
の5ステップを丁寧に踏むことです。
不確実性の高い時代だからこそ、長期視点の資金計画が「安心して暮らし続ける力」になります。
FPとしても、数字と制度だけでなく、お客様の価値観やご家族の想いに寄り添う計画づくりが求められています。
出典
・厚生労働省「介護保険制度の現状」
・総務省「家計調査」
・住宅金融支援機構「シニア向け住宅資金制度」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

