公営住宅の空き家活用が注目される一方、根本的な課題として避けて通れないのが 老朽化した団地の建て替え・修繕費の確保 です。
昭和期に大量建設された団地は、築40~50年を超えて耐震性・設備性能・バリアフリー面で限界が近づいています。しかし、多くの自治体では財源不足から建て替えが進まない状況が続いています。
本稿では、公営住宅が抱える建て替え・修繕の「財源問題」を整理し、今後の対応策を探ります。
1. 建て替えが進まない最大の理由は「コスト」
公営住宅の建て替えには莫大な費用がかかります。
一般的な試算では、1戸あたり2,000万〜3,000万円規模 になると言われ、団地全体では数十億〜数百億円に達します。
自治体財政は以下の要因で逼迫しており、建て替えに踏み切れない例が多く見られます。
- 人口減少で税収が縮小
- 社会保障費が増加
- 災害対策・学校施設の改修など競合する支出が多い
- 国の補助金枠が限られる
結果として、修繕を最低限にとどめ、老朽化が加速する“負のスパイラル”に陥る団地も少なくありません。
2. 修繕不足で「潜在空き家」が増える
国の統計には現れませんが、実際には修繕が追いつかず「募集すらできない空き室」が多く存在します。
- 雨漏り
- 給排水設備の劣化
- キッチン・浴室など水回りの老朽化
- 階段・廊下の補修遅れ
このような部屋は、住める状態に戻すための修繕費が追加で必要になります。
これがさらに財政負担を高める要因になります。
3. 民間資本や外部資金の活用が広がる可能性
近年、「自治体単独の負担で建て替えるモデル」は限界が見え始めています。
そのため、以下の新たな手法が注目されています。
- 民間企業とのPPP方式(公民連携)
- 団地内の一部を店舗や医療施設として賃貸
- 外部事業者が運営する高齢者住宅の併設
- 学生寮・社宅用途としての部分貸し
空き家を活用しながら収益源を確保し、修繕費に充てるモデルが模索されています。
4. 建て替えだけが正解ではない
団地の老朽化への対応は、必ずしも建て替え一択ではありません。
- 部分的な解体と棟再編
- 低層化・戸数削減による管理戸数の適正化
- エレベーターの後付け(可能な棟のみ)
- 空き室の用途変更で収益化
宮崎市のように「十分に住める住戸は積極的に活用し、老朽化が進んだ棟は段階的に整理する」方針が、今後主流になると見込まれます。
結論
建て替え・修繕費の財源問題は、公営住宅の将来を左右する大きなテーマです。
自治体だけでは対応が難しい中、民間資本との連携、外部活用による収益化、管理戸数の適正化など、複数の手法を組み合わせる必要があります。
空き家活用は「今ある団地を使い切る」ための有効策ですが、長期的には建て替え・修繕の財源確保が避けられません。
第6回では、公営住宅が今後どのように福祉政策と連動し、地域社会のインフラとして進化していけるのかを考察します。
出典
- 国土交通省 公営住宅関連資料
- 公民連携(PPP/PFI)事例集
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
