■ AIが「人を減らす」ためのものではない
AIという言葉を聞くと、「人の仕事がなくなる」という不安を感じる人は少なくありません。
しかし実際には、AIを導入しても“人を減らさずに”成果を上げている企業が増えています。
代表的なのが、美容家電メーカーのAiロボティクスです。
27人という少人数ながら、同業の10倍の売上高を誇り、営業利益率も17%超。
それでも人材を減らす方向ではなく、AIを活かして“人が強みを発揮できる仕組み”をつくっているのです。
■ AI時代の組織づくりは「分担」ではなく「共創」
これまでの企業では、人が役割を細かく分けて仕事をしてきました。
営業・経理・企画・制作……いわば分業型組織です。
しかし、AIが登場した今、分業の境界は曖昧になりつつあります。
AIが資料を作り、コピーを考え、数値を集計し、人がその結果を見て判断する。
もはやAIと人が“共に働く”チームをどう設計するかが重要になりました。
■ ①「AIに任せる仕事」を決める
AIを導入する第一歩は、「何をAIに任せるか」を明確にすることです。
Aiロボティクスの場合、広告デザインや効果測定などの定型作業はAIが担当。
人は、商品の企画・ブランド戦略・顧客体験の設計といった創造的な部分に集中しています。
つまり、AIの得意分野(反復・分析・自動化)と、人の得意分野(感性・判断・共感)をきちんと分ける。
この線引きを誤ると、AIが暴走したり、人が疲弊したりします。
■ ② 「AIを使いこなす人」を育てる
AI時代の人材育成で大切なのは、“AIを使える人”を増やすことではありません。
目指すのは、AIを使いこなせる人です。
たとえば、生成AIを活用して広告案を出すことは誰でもできます。
しかし、その案の中から「どれが自社ブランドに合っているか」を判断するのは人の役割です。
つまり、AIが出した結果をどう読むか、どう使うかという判断力と倫理観が問われるのです。
これからの時代は、「AIリテラシー(使う力)」よりも、
「AIマネジメント力(運用・評価・調整する力)」が重要になります。
■ ③ 「個の強み」をAIが引き出す
Aiロボティクスの龍川誠社長は、組織をこう表現します。
「ワンピースやドラゴンボールのような個性の集団を目指している。」
これは、社員全員が同じことをするのではなく、AIによって“個の強み”を最大化する組織を意味します。
AIが作業を肩代わりする分、人は自分の得意分野に集中できる。
たとえば、デザイナーはより創造的な表現に、マーケターはより戦略的な分析に時間を使えるようになるのです。
AIによって「人の個性を埋もれさせる」のではなく、
AIが個性を“引き出す”組織設計こそが理想的です。
■ ④ 経営者が「AIの使われ方」をデザインする
AIを導入してもうまくいかない会社に共通するのは、
「AIをどう使うか」を現場任せにしてしまうことです。
経営者やマネージャーが、
- どの領域をAIに任せるか
- どう評価・監督するか
- どう人の判断と組み合わせるか
を設計してこそ、AIは真価を発揮します。
つまり、AI時代の経営者に求められるのは、
「AIを導入する人」ではなく「AIをデザインする人」になることです。
■ 「人が活きるAI組織」こそが強い会社をつくる
AIは“効率化”の道具ではありますが、
本質的には“人が活きる組織”をつくるためのツールです。
これまで「働き方改革」は、人の負担を減らす方向でした。
これからは「AI活用改革」で、人がやりがいを感じる仕事を増やす方向へ。
AIがあれば、人手不足の中でも生産性を上げられます。
しかしそれ以上に、一人ひとりが“自分の強み”を活かして働ける組織こそが、これからの時代に選ばれる企業になるはずです。
■ 次回予告
第5回 AIが拓く未来の経営 ― 小さくて強い会社へ
AIによって「小さくても収益力のある会社」が次々と誕生しています。
最終回では、AIが変える日本の中小企業の未来像を展望します。
出典:2025年10月9日 日本経済新聞朝刊
「販促にAI、1人10倍稼ぐ 美容家電のAiロボ」より引用・再構成
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
