公営住宅の空き家活用が各地で進む一方、その背景には深刻な政策課題があります。全国で5万戸を超える空き家の増加、自治会の担い手不足、エレベーターがない老朽棟、修繕財源の不足など、これまでの制度設計だけでは対応が難しい状況に直面しています。
第2回では、公営住宅の空き家問題がなぜここまで深刻化しているのか、政策的な構造を整理しながら考えます。
1. 公営住宅の老朽化と建て替え問題
昭和期に大量供給された公営住宅は、築40~50年以上の物件が全国に点在しています。とくに課題となるのは以下の点です。
- エレベーターのない5階建て団地が多数
- 旧耐震基準の物件が残存
- 修繕費が追いつかず未募集の空き家が増加
- 建て替えには莫大な予算が必要
自治体財政が厳しく、建て替えを断念せざるを得ない団地も少なくありません。
2. 高齢化の進行で「上層階に住めない」問題が顕在化
高齢者比率が50~60%を超える団地が増える中、上層階が“実質的な空き室”になる現象が起きています。
階段のみの団地では、
- 買い物に行けない
- 転倒リスクの増加
- 孤立の深刻化
など、住まいそのものがハード面で限界を迎えています。
結果として、入居者の退去後、上層階は埋まらず空き家率が上昇する傾向にあります。
3. 自治会の縮小と地域コミュニティの弱体化
高齢化と人口減少が重なり、共益費の担い手が減少。清掃、祭り、防災訓練、見守り活動など、多くの団地で自治会が維持困難になっています。
自治会機能の弱体化は、以下の連鎖を生みます。
- 防犯・防災力の低下
- 清掃・管理コストの増加
- 新規入居希望者の減少
- さらに空き家が増加
構造的な負のスパイラルに陥りやすくなります。
4. 「目的外利用」が政策として広がった背景
国土交通省は近年、空き家増加を踏まえ、公営住宅の柔軟な運用(地域対応活用)を認めました。これは本来の目的である「住宅に困窮する人の支援」の枠を残したまま、空き家の一部を自治体裁量で活用できるようにした制度です。
背景には、
- 空き家率上昇への危機感
- 若者の流入によるコミュニティ再生ニーズ
- 団地を地域福祉の基盤とする動き
- 外国人労働者受け入れ拡大の政策潮流
などが挙げられます。
結論
公営住宅の空き家問題は、単なる「住宅政策」ではなく、高齢化・地域衰退・財政難・外国人支援政策 など、複数の課題が重なる領域にあります。
今後の団地再生には、建替えや修繕といったハード整備だけでなく、若者・学生・子育て世帯・外国人など多様な人々を受け入れ、地域の担い手を増やすソフト施策が欠かせません。
第3回では、この流れを「地域共生モデル」として整理し、団地が目指す未来像を考えていきます。
出典
- 国土交通省「公営住宅ストックに関する調査」
- 日本経済新聞(2025年11月29日)各記事
- 公営住宅制度関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
