【横断総集編】事業承継の本質は「経営の承継」である

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事業承継というと、「自社株の評価」「相続税・贈与税対策」「納税資金の準備」といった税務的な視点が注目されがちです。確かに税金は無視できない要素ですが、事業承継の本質はそこではありません。会社が次世代にわたり存続し、社員や地域社会に貢献し続けるためには、「経営そのものが継続可能であること」が何より重要です。

本総集編では、全5回にわたり解説した「経営承継」の全体像を改めて整理し、事業承継に必要な考え方・準備・計画のポイントを総合的にまとめます。

1. 税務対策だけでは会社は守れない

事業承継の現場をよく見ると、「税金は払えたのに、承継後に会社が揺らぐ」ケースが少なくありません。実際、自社株の納税資金が原因で倒産した事例はほとんどなく、多くの失敗は以下のような“経営面の空白”から発生します。

  • 後継者が育っていない
  • 社員・幹部が後継者を支えない
  • 組織が先代依存で属人的
  • 社内制度が古く、労務トラブルが発生
  • 取引先や金融機関との信頼が引き継げない

つまり、事業承継の本質は「税務」ではなく「経営」であり、会社の土台となる体制が整っていなければ、株を渡しても会社は続きません。

2. 後継者の選定と育成こそ最重要

後継者の育成は、事業承継の中心に位置づけられるテーマです。経営者が担う役割は非常に広く、短期間では引き継げません。

一般的に後継者に必要とされるのは次の能力です。

  • 数値や財務への理解
  • 社員との信頼構築
  • 主要取引先・銀行との関係形成
  • 経営判断の経験
  • 組織を動かすリーダーシップ

これらすべてを1〜2年で習得するのは不可能であり、最低でも3〜5年、理想は5〜10年の育成期間が必要になります。

また、後継者選びは「血縁」だけで判断してはいけません。家族内承継が中心であっても、適性・意欲・価値観の一致を重視し、必要であれば社内や外部の候補を含めて検討することが望まれます。

3. 後継者一人では会社は動かない

後継者がどれほど優秀であっても、経営を1人で担うことはできません。
中小企業では特に、先代に権限が集中していたケースが多く、そのまま後継者に引き継ぐのは大きな負担になります。

そこで必要になるのが 次世代経営チームの構築 です。

  • 営業責任者
  • 管理部門責任者
  • 現場責任者
  • 若手リーダー
  • 後継者の参謀役

こうしたメンバーが後継者を支え、会社全体の意思決定を分担していく体制が整えば、承継後の経営は安定します。
権限移譲も段階的に進め、後継者が実務を経験しながら成長できる環境を整えることが重要です。

4. 社内制度・規程のアップデートは“見えないインフラ”

先代の時代に問題がなかった社内制度も、現代の労務環境では通用しない場合があります。

  • 就業規則
  • 労働時間管理
  • ハラスメント対策
  • 情報セキュリティ
  • SNS・デジタル利用ルール
  • 評価・賃金制度
  • コンプライアンス体制

これらが古いままだと、後継者が就任してすぐに労務トラブルや不満が表面化し、「新体制への不信感」が広がることがあります。

社内制度の整備は、後継者に負担をかけないための重要な準備であり、事業承継を前にして最優先で取り組むべき分野です。

5. 専門家・金融機関との連携で承継はスムーズになる

事業承継は、税務・法務・労務・財務・経営など多領域が複雑に絡み合います。そのため、1人の社長だけで全てをカバーするのは現実的ではありません。

サポートできる専門家は次の通りです。

  • 税理士(税務・財務分析)
  • 社会保険労務士(労務・制度)
  • 弁護士(法務リスク・株主対応)
  • 中小企業診断士(経営計画・組織設計)
  • FP(個人資産・相続)
  • 金融機関(信用補完・資金支援)

専門家や金融機関が関与することで、承継計画の精度が上がり、社内外の理解が進みます。

6. 経営承継計画をつくることで未来が見える

最終的に重要なのは、事業承継の準備を「計画」としてまとめることです。
これが 経営承継計画 です。

典型的な内容は次のような項目です。

  • 後継者育成のスケジュール
  • 次世代経営チームの編成
  • 社内制度の整備計画
  • 財務分析・改善の方針
  • 自社株評価と税務対策の方向性
  • 金融機関・取引先への引継ぎ計画
  • 社長交代のタイミング

計画があることで、後継者の成長も、社内の受け入れ態勢も、協力すべき外部機関も、すべてが一つの方向にまとまります。

経営承継計画は、会社の未来を明確に描くための“地図”のような存在です。

7. 事業承継の成功は「早期着手」にかかっている

事業承継は、今日手をつけても明日結果が出るものではありません。
後継者育成にも、組織づくりにも、制度整備にも、時間が必要です。

理想は、社長交代の 5〜10年前から準備を開始すること です。
準備が早ければ早いほど、後継者は成長し、組織は落ち着き、外部からの信頼も厚くなります。

結論

事業承継は「株を渡して終わり」ではありません。
真の目的は、次世代でも会社が存続し発展し続けることです。そのためには、後継者育成、次世代経営チームの構築、社内制度の整備、専門家との連携、そして計画的なロードマップが欠かせません。

会社の未来を支えるのは、税務対策だけではなく、
経営そのものを次世代へ引き継ぐ準備
です。

事業承継は長期戦です。しかし早く始めるほど成功の確率は高くなります。
会社の未来、社員の安心、家族の幸福のために、今日から一歩を踏み出すことが何より重要です。

出典

・日本経済新聞「事業承継の本質は経営承継にあり」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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