相続税の土地評価の中でも、特に難易度が高い分野が「借地権(しゃくちけん)」と「底地(そこち)」です。
借地権とは、他人の土地を借りて建物を建てられる権利のことで、底地とはその借地権が設定された土地の所有権を指します。
借地権と底地は権利が重なっているため、普通の土地とは異なる評価方法が必要です。
専門家でも判断を誤りやすく、相続税の申告誤りの代表例と言ってもよい分野です。
本記事では、一般の方でも理解できるように借地権・底地の評価の基本と“落とし穴”をまとめます。
1. 借地権・底地とは?
■借地権
土地を借りて建物を建てたり使ったりする権利のこと。
借地人(借りている人)が持つ資産価値のある権利です。
■底地
借地権が設定されている土地の所有権のこと。
地主が持つ資産ですが、自由な利用が制限されているため、通常の土地より価値は下がります。
■イメージ図
「土地の価値」 = 「借地権」 + 「底地」
という関係になります。
2. 借地権の評価は「借地権割合」が基本
借地権の価値は、財産評価基本通達で定められた「借地権割合」を用いて評価します。
例:借地権割合が60%の地域
→ 土地の価値 × 60% が借地権の評価額
借地権割合は地域によって
・A地区(90%)
・B地区(80%)
・C地区(70%)
…と区分されています。
借地権割合が高いほど、借地権は強い権利=資産価値が高いという意味です。
3. 底地の評価は借地権の“逆”になる
底地は借地権が付いているため、価値が制限されます。
底地の価値は、
土地の価額 ×(1 − 借地権割合)
が基本になります。
例えば、借地権割合60%の地域なら
底地価額=土地の価額 × 40%
4. しかし実務はもっと複雑:典型的な落とし穴
借地権・底地評価は、単純な計算だけでは不十分です。
実務では以下の事情に応じて価値が大きく変動します。
■落とし穴①:地代が「適正」かどうかで評価が変わる
地代(金銭の支払い)が
・適正地代(通常相場に近い)
・低額地代(相場より安い)
のどちらかで評価が大きく変わります。
低額地代の場合、地主側の権利がより制限されているため、底地の価値はさらに低くなります。
■落とし穴②:更新料・承諾料の慣行が地域で異なる
・借地契約を更新するときの更新料
・建て替えるときの承諾料
が慣習として存在する地域では、その金額も価値に影響します。
地域差が非常に大きい分野です。
■落とし穴③:老朽化した建物の借地権は価値が下がる
借地権の価値は「その土地を使える価値」によって決まるため、
建物が老朽化していると借地権自体の価値が下がることがあります。
■落とし穴④:借地契約の内容で評価が変わる
契約書が古いまま(旧借地法のまま)なのか、
新しい契約(借地借家法)なのかで権利内容が変わります。
契約の内容を確認しないまま評価するのは非常に危険です。
■落とし穴⑤:底地は市場で売却しづらい
底地は一般に「地主としての権利」が制限されているため、
実勢価格は評価額よりさらに低くなることが多いです。
地主は自由に使えず、建て替えにも借地人の承諾が必要なためです。
5. 借地権・底地評価で必要な資料
評価の誤りを避けるためには、次の資料が欠かせません。
- 借地契約書(旧法か新法か)
- 地代支払い状況
- 更新料・承諾料の有無
- 建物の種類・築年数
- 借地権割合の確認(路線価図)
- 不動産鑑定士の意見書(難度が高い案件は必須)
特に、契約書の確認は絶対に必要です。
6. 借地権・底地評価が相続税に与える影響
借地権割合60%の土地(時価1億円)の場合:
- 借地権:1億円 × 60% = 6,000万円
- 底地: 1億円 × 40% = 4,000万円
借地権割合が高い地域ほど借地権の価値が大きくなり、底地の価値は小さくなります。
仮に地代が低額の場合は底地が
「時価で30〜35%」となるケースもあります。
評価を誤ると、1,000万円以上のズレが生じることも珍しくありません。
結論
借地権・底地の評価は、相続税の中でも特に複雑で、専門家でも判断が分かれる分野です。
理由は以下のとおりです。
- 契約内容によって権利の強弱が変わる
- 地代・更新料など慣行に地域差がある
- 建物の状況が評価に影響する
- 借地権/底地の実勢価格が大きく乖離する
評価を誤ると、過大にも過小にもなりやすく、税務調査で指摘されるリスクもあります。
借地権・底地が関係する相続の場合は、
税理士だけでなく不動産鑑定士や法律専門家とも連携し、慎重に評価することが重要です。
出典
・国税庁「財産評価基本通達」
・国税庁「借地権の評価」関連通達
・借地借家法
・旧借地法
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
