相続税の土地評価の中でも、とくに実務でトラブルが多いのが「私道(しどう)」や「位置指定道路」の評価です。
私道は表面上「道路のように見えていても、実質は個人の所有物」であり、道路としての利用や管理状況によって価値が大きく変わるため、評価を誤ると税額に大きな影響を与えます。
「私道の持分があるけれど、これって評価するの?」
「他の住民も使っているのに、価値はどうなるの?」
「舗装費や修繕費は関係あるの?」
このような疑問は非常に多く、専門家でも悩む分野です。
本記事では、一般の方にも分かりやすく「私道の評価がなぜ難しいのか」「どのように評価されるのか」を整理します。
1. 私道とは何か?位置指定道路とは?
まずは言葉の整理です。
■ 私道(しどう)
個人または複数人で所有している道路状の土地を指します。
見た目は道路でも、所有は国・自治体ではなく「民間」です。
■ 位置指定道路(いちしていどうろ)
建築基準法に基づき、家を建てるために市区町村から「道路」と認められた私道です。
幅員や舗装状況など一定の基準を満たしている場合に指定されます。
■ 通行権(通行地役権)
敷地に行くために他人の土地を通らざるを得ないとき、通行を認める権利を設定することがあります。
これらはいずれも「道路として使われる土地」ですが、
所有形態・利用状況・権利関係が多様なため、評価方法も一様ではありません。
2. 相続税評価の基本:私道は原則として評価する
私道の持分を所有している場合、相続税上は次のように扱います。
✔ 原則:持分割合に応じて評価する
例:100㎡の私道に1/5の共有持分
→ 100㎡ × 路線価 × 1/5 が基本評価
ただし、ここからが問題です。
私道は“通常の宅地と違って”価値が大きく下がるケースがあります。
3. 私道の価値が下がるケース
実務では、以下の事情があると「普通の土地としての価値」が低下します。
■① 一般通行が可能で価値が薄い
近隣住民が日常的に自由に通行し、所有者としての“支配力”が弱い場合、価値は下がります。
■② 建築基準法上の道路として必要不可欠
位置指定道路など、他の家が建つために必ず存在しなければならない場合、
所有者が自由に売却・移転できない=利用権が制限される
ため価値が低くなります。
■③ 舗装や修繕の負担が所有者にかかる
・舗装工事
・補修費
・排水設備の維持
などの費用を所有者が負担する場合、これも減価要因になります。
■④ 道路として以外の利用が困難
宅地・駐車場・建物の建築ができないため、地としての利用価値が低いという扱いです。
4. 私道で「よくある勘違い」
❌ 勘違い①:私道だから評価ゼロ
→ 原則は評価します。
ただし、利用状況などにより減価を考慮するケースがあるというだけです。
❌ 勘違い②:位置指定道路は公道と同じ
→ 所有権は民間のまま。
維持管理の負担や通行権の制限など、価値が下がる要因が多い土地です。
❌ 勘違い③:他の住民も使うから価値が高い
→ むしろ“支配力が弱い=利用制限が多い”ため、評価が下がるケースが多い。
❌ 勘違い④:持分が少ないから評価しなくてよい
→ 持分割合が1/10でも、原則として評価対象になります。
5. 実務では“減価要因”をどう扱うか
財産評価基本通達では明確な計算式がないため、実務では次の方法で評価します。
✔① 路線価をそのまま使い、一定割合で減価
例:
・位置指定道路 → 通常評価の30〜50%
・純粋な私道 → 利用状況に応じて10〜30%
(※あくまで一般的傾向。地域・実態で異なります)
✔② 不動産鑑定士の意見書により合理的な金額を採用
複雑なケースでは鑑定評価が有効です。
✔③ 境界確定・通行権の有無を踏まえて再評価
地役権設定の内容が価値に大きく影響するため、契約内容の確認が必須です。
6. 私道評価で重要な資料
評価を誤らないためには、次の資料が役立ちます。
- 土地の登記事項証明書(所有形態の確認)
- 公図・地積測量図
- 建築基準法上の「道路判定」資料
- 位置指定道路の指定図面
- 地役権設定契約
- 私道の利用状況が分かる写真
- 修繕履歴、負担状況を示す資料
評価減を主張する場合、根拠資料が極めて重要です。
結論
私道・位置指定道路・通行権の評価は、土地評価の中でも特に複雑で、誤解されやすい分野です。
同じ「私道」でも、
・利用状況
・管理負担
・通行権の設定状況
・位置指定道路かどうか
によって評価額が大きく変わります。
評価を過大にすると相続税を払い過ぎ、逆に過少評価すると加算税のリスクにつながります。
適正な評価のためには、道路判定・通行権の有無・持分割合など、専門的な情報の確認が欠かせません。実務に不慣れな場合は、税理士や土地家屋調査士、不動産鑑定士と連携しながら慎重に進めることが大切です。
出典
・国税庁「財産評価基本通達」
・建築基準法(位置指定道路に関する規定)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
