相続税の課税割合が1割を超える水準に達したことで、相続対策への関心はこれまで以上に高まっています。その中で、必ず話題に上がるのが生前贈与です。
生前贈与は、相続税の負担を抑える手段として長く用いられてきましたが、近年は制度の見直しが相次ぎ、単純な節税策としては使いにくくなっています。
本稿では、相続税の申告事績データを手がかりに、生前贈与がどのように位置づけられ、今後の税制改正でどのような方向に整理されていく可能性があるのかを考えます。
相続税データが示す「生前贈与万能論」の終焉
令和6年分の相続税データを見ると、課税割合が上昇し、申告税額も高水準となっています。仮に生前贈与が広く有効に機能しているのであれば、相続税の申告税額は抑えられる方向に動くはずです。
しかし、実際には相続税収は拡大しており、生前贈与だけで相続税負担を回避することが難しくなっている現実がうかがえます。
この背景には、制度設計が「相続直前の形式的な資産移転」を抑制する方向へと変化してきたことがあります。税制は、生前贈与を全面的に否定しているわけではありませんが、相続税の単なる迂回手段として使われることを明確に警戒しています。
暦年課税と相続時精算課税の役割分担
生前贈与には、暦年課税と相続時精算課税という二つの制度があります。
暦年課税は、少額ずつ時間をかけて資産を移転する制度として位置づけられてきました。一方、相続時精算課税は、早期にまとまった資産移転を行い、その精算を相続時に行う制度です。
税制改正の流れを見ると、この二つの制度は「どちらを使えば得か」という単純な選択肢ではなく、「どのような資産移転を想定しているか」に応じて使い分けさせる方向に整理されつつあります。
相続税データで課税対象が拡大する中では、制度の選択を誤ることによる影響も大きくなり、結果として制度の分かりにくさが課題として浮上しやすくなります。
相続直前の移転をどう抑制するか
生前贈与を巡る税制改正の大きなテーマの一つが、相続直前の資産移転をどのように扱うかです。
相続税は、本来、死亡による資産移転を捉える税ですが、直前に贈与が行われれば、形式的には課税対象から外れることになります。この点をどう調整するかは、税制の公平性に直結します。
相続税データで申告税額が高水準で推移していることは、制度が一定程度、直前移転を抑制する方向で機能していることを示しているとも考えられます。今後の改正でも、この方向性が大きく変わる可能性は高くありません。
目的型非課税制度の位置づけ
教育資金や結婚・子育て資金など、目的を限定した贈与の非課税制度も、生前贈与を語る上で欠かせない存在です。
これらの制度は、資産移転を通じて特定の社会的目的を支援する役割を担っていますが、制度が増えるほど全体像は分かりにくくなります。
相続税の課税対象が拡大する局面では、「一部の人だけが使いこなせる制度」になっていないかが問われやすくなります。税制改正では、効果検証を踏まえた整理・簡素化が議論の俎上に載りやすくなります。
資産の種類による不均衡という論点
生前贈与の使いやすさは、資産の種類によっても大きく異なります。
金融資産は分割しやすく、贈与の実行も比較的容易ですが、不動産は分割や評価が難しく、贈与に伴う税務リスクも高くなります。
相続税データで課税対象が広がる中、こうした資産間の不均衡が、制度としてどこまで許容されるのかは重要な論点です。税制改正では、特定の資産だけが有利・不利にならないよう、制度全体の整合性が意識されます。
今後の税制改正で注目される視点
相続税データを踏まえると、生前贈与を巡る今後の税制改正では、次のような視点が重視されると考えられます。
第一に、生前贈与と相続税を一体として捉える設計をどこまで進めるかという点です。
第二に、制度の複雑さと公平性のバランスをどう取るかという点です。
第三に、資産移転を促すのか、抑制するのかという政策目的を、より明確に示す必要性です。
課税対象が拡大するほど、制度の予見可能性は重要になります。
結論
相続税の課税割合が1割を超える時代において、生前贈与は単なる節税策ではなく、資産移転のルールとして再定義されつつあります。
相続税データは、生前贈与だけで相続税負担を軽減することの限界を示す一方で、制度がどのような方向を目指しているのかを読み解く手がかりにもなります。
今後の税制改正を考えるうえでは、生前贈与を個別のテクニックとしてではなく、相続税制全体の中でどう位置づけられているのかを意識することが重要です。
参考
・国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」
・税のしるべ「相続税の課税割合が1割超に、地価上昇や株高などで」(2026年1月5日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
