2025年、日本経済は長く続いた「金利なき世界」から明確に転換しました。
日本銀行は段階的な利上げを進め、政策金利は0%台後半へと引き上げられました。長期金利も上昇し、名実ともに日本は「金利ある世界」に戻りつつあります。
この変化は、株式市場では銀行株の再評価として表面化しましたが、影響はそれにとどまりません。企業の財務戦略、家計の資産形成、さらには経済全体の構造にまで、静かに、しかし確実に波及しています。
本稿では、「金利ある世界」の復活が何を変え、何を変えつつあるのかを整理します。
長期停滞していた「金利ゼロ」の前提
日本では長年、金利がほとんど動かないことが前提となってきました。
デフレ下では利上げ余地がなく、金融政策は緩和を続ける以外の選択肢を持ちませんでした。その結果、企業も家計も「金利は考えなくてよいもの」として行動してきました。
企業は低金利を前提に借入を行い、家計は預金に置いても利息は期待できないため、金利水準そのものへの関心は薄れていきました。金融市場においても、銀行株は低収益体質の象徴として評価が抑えられてきました。
この前提が、インフレの定着とともに崩れ始めています。
金利上昇がもたらした銀行株の再評価
2025年の株式市場で目立った動きの一つが、銀行株の再評価です。
金利が上昇すれば、銀行は貸出金利と預金金利の差、いわゆる利ざやを拡大しやすくなります。長年、低金利によって圧迫されてきた収益構造が改善するとの期待が、株価に反映されました。
重要なのは、今回の評価が一時的な材料ではなく、日本経済のモードチェンジを前提としている点です。物価と賃金が動く経済に戻るのであれば、金利が一定水準を持つ状態は「例外」ではなく「通常」になります。
その意味で、銀行株の上昇は、日本経済が低成長・低金利の世界から抜け出しつつあることを象徴する動きと見ることができます。
企業財務への影響は限定的か
金利上昇と聞くと、企業の利払い負担増を懸念する声が浮かびます。
確かに、変動金利で多額の借入を行っている企業にとっては、金利上昇はコスト増要因となります。
しかし、実際には多くの企業が低金利時代に固定金利での資金調達を進めてきました。借入期間も長期化しており、足元の利上げが直ちに業績を圧迫するケースは限定的です。
むしろ、インフレによる売上拡大と名目利益の増加が、金利負担の増加を吸収している企業も少なくありません。金利上昇だけを切り取って悲観するよりも、企業の財務構造全体を見る視点が重要になります。
家計にとっての「金利復活」の意味
家計にとっても、「金利ある世界」は行動を変える要素となります。
預金金利がわずかでも動き始めると、現金・預金の位置づけが変わります。長年、実質的に目減りしてきた預金が、ようやく利息を生む資産として再認識される可能性があります。
一方で、住宅ローンや各種ローンを抱える家計にとっては、金利上昇は慎重に向き合うべき要素です。特に変動金利型の借入については、返済額の増加を見据えた家計管理が求められます。
金利が動く世界では、資産と負債の両面を意識したバランス管理が重要になります。
金利とインフレの微妙な関係
今回の金利上昇は、インフレの定着と表裏一体の関係にあります。
物価が上昇する局面では、金利がゼロのままである方が不自然です。実質金利が過度にマイナスとなれば、通貨価値の低下や過剰な投機を招く恐れもあります。
日銀が慎重に利上げを進めている背景には、インフレを抑え込むことだけでなく、経済主体の行動を歪めない水準に金利を戻すという意図があります。
「金利ある世界」とは、単に金利が上がることではなく、経済の前提が正常化する過程とも言えます。
結論
「金利ある世界」の復活は、日本経済にとって大きな転換点です。
銀行株の再評価に象徴されるように、長年抑えられてきた分野に光が当たり始めています。一方で、企業や家計には、金利を前提とした判断が改めて求められるようになりました。
重要なのは、金利上昇を単なるリスクとして捉えるのではなく、インフレ定着と表裏一体の変化として理解することです。
次回は、この「金利ある世界」と密接に関係する、政権運営と市場信認の問題を取り上げます。積極財政は株高を持続させるのか、それとも新たな不安要因となるのかを整理します。
参考
・日本経済新聞「製造業・金融株に再評価 日経平均、年末終値5万円台」
・日本経済新聞「市場信認『3つの難所』 止まらぬ円安、政権運営にリスク」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
