「資産移転の時期の選択に中立的な税制」とは?――7年加算・相続時精算課税の改正をやさしく解説

税理士
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2024年(令和6年)から、相続税と贈与税の関係が大きく変わりました。
相続開始前3年以内の贈与を相続財産に加算していた従来の制度が、「7年加算」へと拡大されたのです。

この改正の背景には、長年の課題とされてきた「資産移転の時期の選択に中立的な税制」という考え方があります。
つまり、「贈与のタイミングによって有利・不利が生じないようにする」という発想です。


1.なぜ「資産移転の時期」に注目するのか

相続税は、亡くなった人が所有していた財産に課税されます。
しかし、もし生前に多くの財産を贈与しておけば、相続時の課税対象は減る――。
これでは「早く贈与した人が得をする」ことになります。

この不公平を防ぐために、被相続人が亡くなる前の一定期間の贈与を相続財産に加算する仕組みが設けられています。
明治38年(1905年)の相続税創設時からこの考え方は続いており、加算期間は1年→3年→7年と変遷してきました。


2.2024年からの「7年加算」とは

これまでの相続開始前3年以内の贈与加算に代わり、2024年1月1日以後の贈与については次のように改正されました。

  • 相続開始前7年以内の贈与財産を相続財産に加算
  • ただし、相続開始前3年を超え7年以内の贈与については、合計100万円まで控除
  • 2024年1月1日以後の贈与から順次、加算対象に

この「100万円控除期間」は、少額贈与の追跡を煩雑にしないための配慮です。
基礎控除の範囲内でも加算対象になるため、たとえ110万円以下の贈与でも相続時に申告が必要になるケースがあります。


3.「より中立的な税制」への一歩

「資産移転の時期の選択に中立的な税制」とは、生前贈与でも相続でも、課税の負担が公平であることを目指す仕組みです。

欧米諸国と比べても、日本の3年加算は短すぎると指摘されてきました。
例えば:

国名加算期間評価
日本7年(新制度)より中立的
ドイツ10年より中立的
フランス15年より中立的
アメリカ一生涯完全に中立的

今回の7年加算は、日本の制度が「より中立的」に近づいたといえますR07-22。
今後、さらに期間を延ばす(=完全な中立化)方向への議論も予想されます。


4.相続時精算課税にも基礎控除110万円が新設

同じく2024年1月から、相続時精算課税制度にも新しい基礎控除が設けられましたR07-22。

これまでは「特別控除2,500万円」しかなく、超えると1円から課税対象。
そのため、毎年の少額贈与でも申告が必要でした。

新制度では、毎年110万円までの贈与が控除され、暦年課税と同じ扱いが可能になりました。
ただし、相続時には「110万円を超えた部分」だけでなく、特別控除後の残額全体が相続財産に加算される点に注意が必要です。


5.「遺産取得課税方式」への布石?

現行の日本の相続税は「法定相続分課税方式」です。
これは、遺産課税方式と遺産取得課税方式の折衷型といわれますが、
「自分の相続税額を他の相続人の事情が左右する」という欠陥があります。

2023年6月の税制調査会では、

「実際に取得した財産額に応じた課税を行うべき」
との意見が示され、今後の見直し論議の方向性が示唆されています。


6.まとめ ― 改正のポイントを整理

改正内容改正後適用開始
贈与加算期間相続開始前7年以内(うち100万円控除期間あり)2024年1月1日以後の贈与
相続時精算課税の基礎控除年110万円(暦年課税と同様)同上
加算対象暦年課税・相続時精算課税とも適用同上
制度の方向性「より中立的」から「中立的」へ段階的に検討中

おわりに

「資産移転の時期の選択に中立的な税制」とは、単なるテクニカルな表現ではありません。
それは、“贈与と相続を一体としてとらえる”という、税制の根本的な考え方の転換を意味します。

今後、10年加算や一生涯加算のような“完全中立化”が進む可能性もあります。
これからの贈与・相続対策は、「早めに渡す」より「どう活かすか」が鍵になる時代です。


参考資料

東京税理士協同組合教育情報事業配布資料
「全国統一研修会:資産移転の時期の選択に中立的な税制」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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