「貸倒引当金」ってなに?――中小企業が知っておきたい“もしもの備え”と計算の基本

会計
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🏢 貸倒引当金とは?

取引先の倒産や経営悪化で、売掛金などの債権が回収不能になる――。
そんなリスクに備えて、あらかじめ見積もっておく損失額を計上するのが「貸倒引当金」です。

会計上は「貸倒見積高」を費用として計上し、将来の貸倒損失を平準化します。これにより、特定の期に大きな損失が発生するのを防ぎ、より実態に近い損益計算が可能になります。
また、貸借対照表の資産の健全性を高めるという意味でも重要な役割を果たします。

💬 つまり、貸倒引当金は「利益のブレを防ぐ安全装置」であり、「経営判断の精度を高める会計の知恵」なのです。


🔍 貸倒引当金の対象となる債権

貸倒引当金を設定できるのは、将来回収不能となるリスクを含む「金銭債権」です。
代表的なものを以下に整理します。

種類内容
売掛金商品やサービス提供後の未回収代金。最も一般的な対象。
受取手形・電子記録債権決済期日までに不渡りとなる可能性があるもの。
貸付金取引先・子会社・役員などへの貸付金。
未収入金固定資産の売却代金や賃貸料など、本業外で発生した債権。
立替金従業員の出張費立替など、一時的に負担した金銭。

逆に、預貯金や保証金、前払費用などは対象外です(税務上も認められません)。


🧮 貸倒見積高の区分と算定方法

債務者の財政状態に応じて、債権を3つに区分して見積もります。

区分内容算定方法(概要)
一般債権経営状態に問題のない債務者への債権過去の貸倒実績率など合理的な基準に基づき算定
貸倒懸念債権弁済に問題が生じている、またはその可能性が高い財務内容評価法・キャッシュフロー見積法などで算定
破産更生債権等経営破綻または実質破綻の債務者担保・保証回収見込額を控除した残額を計上

実務上はすべての債務者を評価するのは難しいため、多くの中小企業では税法基準に基づく算定が採用されています。


🧾 税務上の貸倒引当金 ― 中小企業の取扱い

税法では、資本金1億円以下の法人など一定の中小企業に限り、損金算入を認めています。
債権は大きく2種類に区分されます。

① 個別評価金銭債権

倒産・再生・特別清算など、法的整理の事由が生じている債権。
また、1年以上の債務超過など、実質的に回収不能と判断されるものも含みます。
繰入限度額は債権の種類や担保・保証の有無により異なります。

② 一括評価金銭債権

上記以外の債権(通常の売掛金など)が対象。
次のいずれかの方法で繰入限度額を計算します。

方法内容
貸倒実績率に基づく方法過去3年間の貸倒実績率をもとに算定。
(例)貸倒実績率 = 過去3年の貸倒損失 ÷ 一括評価金銭債権の帳簿価額平均
法定繰入率による方法あらかじめ業種ごとに定められた率を用いて計算。
(例)製造業 8/1000、卸・小売業 10/1000 など。

多くの中小企業では、法定繰入率による方法が採用されています。
計算がシンプルで、毎期の処理負担を軽減できるためです。


📊 法定繰入率の具体例

たとえば、主たる事業が製造業の会社で、期末の売掛金等6,000千円。
そのうち、相殺や保証金により「実質的に債権とみられない金額」が3,000千円ある場合――

(6,000千円 − 3,000千円) × 8/1,000 = 24千円

この24千円が、その期に損金算入できる貸倒引当金繰入限度額になります。


⚙️ 「主たる事業」の判定方法

複数の事業を兼ねている場合は、
売上規模・従業員数・債権残高などを総合的に見て、
「主たる事業」に定められた率を採用します。

(例)製造+小売を営む会社でも、売上の大半が製造業なら「製造業8/1000」を使用。


💬 まとめ:貸倒引当金は“守りの会計”

景気や取引環境が不安定な今、貸倒リスクはどの企業にも存在します。
貸倒引当金をきちんと設定しておくことで――

  • 期ごとの利益変動を平準化できる
  • 財務諸表の信頼性が向上する
  • 税務上も一定の損金算入が認められる

つまり、「貸倒引当金」は会社を守るリスクマネジメントの一部
制度の仕組みを理解し、自社の実態に合った方法で活用することが、
安定経営への第一歩です。


📚 参考:「企業実務」2025年10月号「貸倒引当金の対象債権と計算方法」徹底解説!「貸倒引当金」の対象債権と計算方法


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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