「相続時精算課税制度」の基本と注意点~令和6年改正で変わったポイントをわかりやすく解説~

税理士
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1️⃣ 相続時精算課税制度とは?

「相続時精算課税制度」とは、親や祖父母から子や孫へまとまった財産を贈与したときに、贈与時点で一旦贈与税を支払い、相続時に精算する制度です。
従来の「暦年贈与課税(毎年110万円まで非課税)」と異なり、最大2,500万円まで贈与税がかからない特別控除があります。

制度の目的は、親世代から若い世代への資産移転を促し、経済的な活性化を図ること。
2003年(平成15年)の税制改正で導入され、2024年(令和6年)からはさらに基礎控除が新設されるなど、より使いやすい制度になりました。


2️⃣ 令和6年からの改正ポイント

これまでの制度では基礎控除がなく、「特別控除2,500万円」のみでした。
しかし令和6年以降、次のように変更されています:

項目改正前改正後(令和6年~)
基礎控除なし110万円
特別控除2,500万円2,500万円(変更なし)
税率一律20%一律20%(変更なし)

つまり、贈与額が110万円以下なら申告不要となり、実務的にも使いやすくなりました。


3️⃣ 制度を使える人の条件

この制度は、誰でも使えるわけではありません
主な適用要件は次のとおりです。

  • 贈与者:その年の1月1日時点で 60歳以上
  • 受贈者:その年の1月1日時点で 18歳以上子または孫
  • 贈与財産:金銭・不動産・株式など種類は問わない(国外財産も可)
  • 一度選択すると、贈与者が亡くなるまで継続適用

たとえば、「父(65歳)」が「子(30歳)」に毎年少しずつ資産を移したい場合などに利用できます。


4️⃣ 贈与税の計算方法(実例で理解)

贈与時の税額は次のように計算されます:

(贈与額 − 基礎控除110万円 − 特別控除残額)× 20% = 贈与税額

〈例〉

  • 初年度:2,000万円を贈与
     → 贈与税=0円(2,500万円の特別控除の範囲内)
  • 翌年:820万円を贈与
     → 残りの特別控除は610万円
     → 820−110−610=100万円×20%=贈与税20万円

このように、特別控除の残高を超えた部分のみ課税されます。


5️⃣ 住宅取得資金の特例にも注目!

マイホーム取得のための贈与では、さらに特例が適用されます。
令和8年12月31日までに贈与された住宅取得資金については、贈与者が60歳未満でも相続時精算課税が利用可能です。

主な条件:

  • 受贈者が18歳以上の子・孫
  • 贈与を受けた翌年3月15日までに住宅を新築・購入・増改築
  • 床面積40㎡以上で、半分以上を居住用とすること

また、「住宅資金の非課税枠(1,000万円)」と併用も可能で、計算上は

贈与額-非課税枠1,000万円-基礎控除110万円-特別控除残額
で贈与税を求めます。

👉 例えば3,000万円の贈与なら、
〔3,000−1,000−110−1,890〕×20%=0円。
結果的に贈与税ゼロで自宅取得が可能になります。


6️⃣ 相続時にどう「精算」されるの?

相続が発生した時点で、過去に贈与を受けた財産の価額を相続財産に合算して相続税を計算しますR07-14+。
その際、すでに支払った贈与税額は相続税から控除できます。

つまり、「贈与時点では前払い」「相続時に最終清算」という仕組み。
ただし、贈与時の評価額がそのまま使われるため、値上がり資産(株や不動産)を贈与すると不利になる場合もあります。


7️⃣ 制度を使う前に知っておきたい落とし穴

制度選択後に「やっぱり暦年課税に戻したい」と思っても、途中で変更はできません
また、次のようなケースでは特に注意が必要です。

  • 贈与を受けた子が先に亡くなった場合、その相続人は課税義務を承継する
  • 住宅取得資金特例を使ったのに、翌年末までに居住しなければ「遡って否認」される
  • 贈与税の申告を忘れると、特別控除が使えず課税される

制度選択は、一度きりの重い決断
「相続税対策のつもりが、結果的に税負担が増えた」という失敗も少なくありません。


8️⃣ まとめとアドバイス

相続時精算課税は、高齢の親世代から若い世代へ資産を早めに渡したいときに有効です。
一方で、相続時には必ず合算されるため、節税目的だけで選ぶのは危険です。

🔍活用のポイント:

  • 住宅取得や教育支援など「目的が明確」な贈与に使う
  • 値上がりが見込まれる資産の贈与は避ける
  • 贈与税申告書と「相続時精算課税選択届出書」を忘れずに提出

税理士に相談しながら、「暦年課税」とのシミュレーション比較を行うことが大切です。


📘 参考資料
令和7年度第14回会員研修会「相続対策としての生前贈与について注意すべき点」
(講師:江本尚浩税理士、東京税理士会)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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