■ 1.生命保険は「相続の味方」?
生命保険は「もしもの時に備える」だけでなく、相続のときにも大きな役割を果たします。
なぜなら、保険金は「亡くなったときに確実に現金で受け取れる財産」だからです。
現金で受け取れるということは、
- 相続税の支払い(納税資金)
- 遺産分割のバランス調整
- 残された家族の生活資金確保
などに使うことができ、“争族(そうぞく)”の回避にもつながるのです。
■ 2.生命保険金にも相続税がかかる?
生命保険金は、亡くなった方(被相続人)が契約者だった場合、
相続税の課税対象になります。
ただし、すべてに課税されるわけではありません。
実はここに、よく知られた“非課税枠”があるのです。
■ 3.相続税の非課税枠:「500万円 × 法定相続人の数」
相続税法上、生命保険金のうち
「500万円 × 法定相続人の数」までは非課税
とされています。
たとえば、
被相続人に配偶者と子ども2人がいれば、
→ 500万円 × 3人 = 1,500万円まで非課税。
これを超える部分が相続税の課税対象になります。
💡ポイント
- ここでいう“法定相続人”は、実際に相続を放棄した人も含みます。
- 複数の保険があっても、合計額で非課税枠を計算します。
■ 4.誰が契約者か?で課税関係が変わる
生命保険の課税は、契約者・被保険者・受取人の組み合わせで決まります。
| 契約者(保険料負担者) | 被保険者 | 受取人 | 税目 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 夫 | 夫 | 妻・子 | 相続税 | 一般的なケース |
| 妻 | 夫 | 妻 | 所得税・住民税 | 一時所得扱い |
| 子 | 父 | 子 | 贈与税 | 保険料負担分に課税 |
💬 同じ生命保険でも、誰が保険料を払っていたかで課税の種類が変わります。
たとえば「お父さんが契約していた保険を家族が受け取る」場合は相続税ですが、
「子が親のために保険料を払っていた」なら、贈与税になる可能性があります。
■ 5.生命保険の“納税資金対策”としての役割
相続税は原則、現金で一括納付です。
しかし、不動産中心の相続財産では、現金が足りなくなるケースもあります。
ここで生命保険が力を発揮します。
- 保険金は現金でスムーズに受け取れる
- 被相続人の遺産分割とは別枠扱い(受取人固有の財産)
- 相続発生から数日〜1週間で支払われる
つまり、相続税の“納税資金の確保”という点で、
生命保険は非常に優れた資産設計ツールなのです。
■ 6.「誰を受取人にするか」で遺産分割の形が変わる
生命保険金は、民法上「受取人固有の財産」とされるため、
遺産分割協議の対象外です。
そのため、
- 配偶者を受取人にして生活資金を確保する
- 障害のある子どもを受取人にして将来の支援に充てる
- 相続人以外(例:孫や内縁の妻)を指定して支援する
といった意図的な分配設計も可能です。
ただし、極端に偏った設定(例:長男だけ受取人)は、
他の相続人とのトラブルにつながることも。
生命保険を使うときは、“思いやりとバランス”が大切です。
■ 7.実は相続税対策だけじゃない
生命保険は、節税だけが目的ではありません。
- 子ども世代への資金移転のタイミングを前倒しできる
- 死亡保険金非課税枠を活用して、結果的に税負担を減らせる
- 受取人を工夫すれば家族全体の生活を安定化できる
つまり、「相続税の節税ツール」というよりも、
💬 “家族の経済的安心を守るための設計ツール”
として考えるのが本来の姿です。
■ 8.まとめ:「保険でのこす」のは“お金”と“想い”
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 税金の扱い | 500万円×法定相続人までは非課税 |
| 契約関係 | 契約者・被保険者・受取人の関係で税目が変わる |
| 実務メリット | 納税資金の確保・遺産分割の円滑化 |
| 注意点 | 偏った受取人設定や名義違いに注意 |
生命保険は、相続税の世界でももっとも柔軟で実務的な制度です。
「いざという時の保障」から「家族の未来の安心」へ——。
税金の知識を知ることで、その“想いをつなぐ力”がぐっと広がります。
参考資料:
- 国税庁「生命保険金の課税関係」
- 財務省『相続税法第12条・施行令第3条』
- 東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料」塩野入文雄講師(2025年5月8日)
- 日本FP協会テキスト「リスクと保険」第3章・生命保険と相続
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
