企業の決算書には、日常生活ではあまり耳慣れない言葉が並びます。その一つが「為替差損益(かわせさそんえき)」。難しそうに見えますが、実は私たちが海外旅行で両替をするときの「得した・損した」と同じ仕組みです。今回は、企業の決算にどんなふうに表れるのかを、できるだけシンプルに整理してみましょう。
為替差損益は「円換算の差」
たとえば海外旅行をするとき、1ドル=140円で両替したのに、帰国時に1ドル=150円になっていたら…持ち帰ったドルを円に戻すと、ちょっと得しますよね?逆に1ドル=130円なら損をします。
これが企業会計でいう「為替差益」「為替差損」です。海外取引をする企業では、日常的にこの「為替による得・損」が発生しています。
発生するのは大きく2つの場面
1. 取引から決済までの間に為替が動く
たとえば1ドル=140円の時に10ドルの商品を輸出して売上を計上。3カ月後に代金を受け取る時、為替が1ドル=150円になっていたら、回収額は1,500円になり100円得をします。逆に1ドル=130円なら1,300円になり100円損します。
2. 決算時点で外貨建ての資産や負債を評価し直す
企業がドル建てで借金をしていた場合、期末に為替が円高・円安どちらに動いたかで、帳簿に記録する金額が変わります。たとえば1万5,000円の負債が、期末には1万4,000円に減っていた――これも「為替差益」です。
本業の利益にも影響する
「為替差損益」は会計上は営業外損益に分類されますが、為替は本業の売上や利益にも直撃します。
- 輸出企業(海外に商品を売る会社)は、円安になると売上高が増えやすくなります。
- 輸入企業(海外から商品を仕入れる会社)は、円安になると仕入れコストが増え、利益を圧迫します。
たとえば10ドルの商品を輸入する会社なら、1ドル=140円のときは1,400円、1ドル=150円になれば1,500円。円安は「原材料費や仕入れ値が上がる」ことを意味します。
海外子会社の利益換算にも影響
海外に子会社を持つ企業は、現地で稼いだお金を円に換算して連結決算にまとめます。円安になると「同じドルの利益でも円に直すと大きく見える」ため、日本の決算書の利益が押し上げられることになります。
実際どのくらい影響があるのか?
大和証券の試算によると、ドルに対して円が1円安くなると、主要企業の経常利益は平均で0.3%増えるそうです。自動車メーカーなど海外での売上比率が高い企業は特に敏感です。
実際、2024年度(24年4月期〜25年3月期)に計上された為替差益は合計で約1兆3,500億円。そのうちトヨタ自動車だけで7,052億円を占めました。為替の動きがどれほど企業業績に影響しているかが分かります。
企業は「想定レート」を置いている
企業は決算発表の際、「1ドル=〇円」という前提で業績予想を立てています。たとえばトヨタ自動車は2026年3月期で1ドル=145円、ソニーグループは143円前後と見込んでいます。
投資家は、この「想定レート」と実際の為替レートとの差を見て、「この会社の業績は上振れしそうか、下振れしそうか」を判断しています。
まとめ:数字の裏にある為替の力
「為替差損益」は単なる会計の専門用語ではなく、企業の業績を大きく揺さぶる要因です。円安で利益が膨らむ企業もあれば、逆にコスト増で苦しむ企業もあります。
決算発表をニュースで見るとき、「この利益は本業の実力なのか?それとも為替のおかげなのか?」という視点を持つと、ニュースの見え方がぐっと変わります。
📌参考:日本経済新聞 2025年9月17日 朝刊
「会計フォローアップ」
👉 この記事は「会計フォローアップ」シリーズの第1回です。次回は、企業の損益を左右するもうひとつの重要要素「金利」について取り上げます。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

