会社の経理業務の中で、意外と時間を取られるのが「小口現金」の管理です。
文房具代、交通費、ちょっとした修理代など、日々発生する少額支払いに備えて社内で現金を置いておく仕組みですが、最近では「小口現金を廃止しよう」という動きが広がっています。
今回は、小口現金を廃止する際のメリットとデメリット、そしてスムーズに進めるためのポイントを整理してみましょう。
小口現金の「廃止」を検討する背景
かつては、「現金がないと仕事が回らない」時代がありました。
しかし今では、請求書払い・法人カード・電子決済などの手段が整い、現金を社内に置いておく必要性は減っています。
一方で、小口現金にはこんなリスクもあります。
- 紛失・盗難・横領などの不正リスク
- 出納帳の記帳や残高確認など、管理の手間
- 証憑(レシート)の紛失による経費の不明化
こうした「リスクと手間」を減らすため、小口現金の廃止を検討する企業が増えているのです。
小口現金を廃止するメリット
① 不正リスクの低減
現金を扱わなくなることで、着服・使途不明金などのリスクをほぼ排除できます。帳簿と実残高のズレもなくなり、経理の透明性が高まります。
② 業務効率の向上
現金出納帳の記帳や残高確認が不要になります。
また、社員による立替払いを減らし、請求書払い・カード払いに切り替えることで、経理処理の効率が大幅に向上します。
③ 取引履歴の明確化
すべての支払いがデータとして残るため、監査対応や内部統制の強化にもつながります。
④ ペーパーレス化・リモート対応
現金・領収書のやり取りがなくなり、在宅勤務中でも経費精算が可能になります。
小口現金を廃止するデメリット
もちろん、良いことばかりではありません。
現場では次のような課題が生じることもあります。
① 緊急・例外支払いへの対応
急な修理代や交通費など、「その場で現金が必要」なケースに対応しづらくなる可能性があります。
② 従業員の負担増加
カード払いや経費精算システムの操作に慣れていない社員には、心理的・実務的な負担がかかることも。
③ コストの増加
経費精算システムや法人カードを導入する場合、わずかではありますが利用料が発生します。
④ 社内の抵抗感
「昔からのやり方が一番安心」という声が上がることも。特に高齢層を中心に、現金廃止への抵抗が出やすい傾向があります。
⑤ 移行期の混乱
制度を切り替える際、一時的に精算処理が遅れたり、残高が合わなかったりする可能性があります。
スムーズに廃止を進める6つのステップ
小口現金の廃止は、いきなりやると混乱が生じます。
段階的に進めることが成功のポイントです。
ステップ1:現状の分析と目的の明確化
過去1年分の小口現金帳を分析し、どんな目的・頻度で使われているかを把握。
「不正防止」「業務効率化」「コスト削減」など、廃止の目的を明確にします。
ステップ2:リスクと代替手段の検討
現金を使えなくなることで困る場面を洗い出し、法人カードや経費精算システムなど、代替手段を比較検討します。
ステップ3:ルール設計と制度づくり
「1万円以上はカード払い」「3万円超は振込」などの社内ルールを設定。経理規程の見直しも忘れずに。
ステップ4:社員への周知と教育
制度変更は、少なくとも数か月前に告知。
説明会やマニュアルを用意し、社員が安心して新システムを使えるようにサポートします。
ステップ5:試験導入 → 全社展開
まず一部部署でテスト導入し、課題を洗い出してから全社に展開します。
ステップ6:完全廃止とフォローアップ
残った現金は銀行に入金。新システムの運用状況を定期的にチェックし、必要に応じてルールを改善します。
廃止を成功させるためのポイント
- 経営層が率先して推進し、「目的」と「効果」を社員に丁寧に説明する
- 不慣れな社員へのサポート体制を整える
- トラブル発生時に柔軟に対応できるよう、移行期間を長めに設定する
こうした配慮が、現場の混乱を防ぎ、スムーズな移行につながります。
小口現金のない経理へ
― デジタル化がもたらす新しいスタンダード
クラウド会計や経費精算システムの進化により、現金を扱わずに経理を完結できる時代になりました。
不正防止・効率化・透明性の向上という3つのメリットを得られる「小口現金の廃止」は、今後ますます進むでしょう。
大切なのは、自社の規模や社員のITスキルに合った方法で、無理なく進めること。
焦らず段階的に進めれば、経理の負担を減らし、より安全でスマートな運営が実現できます。
📚 参考文献
『企業実務』2025年7月号
「小口現金廃止のメリット・デメリットと上手な進め方」
(石動総合会計法務事務所 石動 龍 公認会計士・税理士・中小企業診断士・社会保険労務士)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

