近年、企業の間で減価償却の方法を「定率法」から「定額法」に変更する動きが広がっています。
背景には、設備の長期安定稼働やグループ間の会計方針統一など、経営環境の変化があります。
この記事では、減価償却資産の基本から、償却方法変更の手続き・留意点までをわかりやすく整理します。
減価償却とはなにか?
事業で使用する建物や設備、車両、器具備品などの資産は、時間の経過や使用によって価値が減少していきます。
この価値の減少を、使用可能期間(耐用年数)に応じて費用として配分していくのが「減価償却」です。
たとえば、100万円の機械を10年間使うとすれば、毎年10万円ずつ経費にしていく(=定額法)のが基本的な考え方です。
償却方法の種類と選択
税法上、減価償却の方法には次の4種類があります。
- 定率法
- 定額法
- 生産高比例法
- リース期間定額法
実務上は「定率法」と「定額法」が主に使われます。
- 定率法:初期に多く、後に少なく償却(初期投資の回収が早い)
- 定額法:毎期一定額を償却(利益計画が安定しやすい)
平成19年3月31日以前に取得した資産は「旧定率法」「旧定額法」が適用されます。
継続適用が原則——なぜ勝手に変えてはいけないのか?
減価償却の方法は「継続適用」が原則です。
なぜなら、損益計算の恣意性を防ぐためです。
もし毎年好きなように償却方法を変えられたら、利益を操作することが容易になってしまいます。
したがって、税務上も会計上も、合理的な理由がなければ変更は認められません。
なぜ「償却方法の変更」が増えているのか?
最近、償却方法を見直す企業が増えている理由として、次のようなケースが挙げられます。
① 長期安定稼働が見込まれる設備への対応
機械設備などの耐久性が向上し、「定額法のほうが実態に合う」と判断されるケースが増えています。
② グループ全体での方針統一
海外子会社などIFRS(国際財務報告基準)を採用している場合、定額法が標準的なため、
グループ全体で整合性を取る目的から変更する企業もあります。
③ 利益平準化の観点
設備投資後の初期段階で利益を安定化させたい場合、定額法への変更が有効です。
ただし、「利益操作目的」と見られないよう、明確な合理性が求められます。
税務上の手続きと注意点
償却方法を変更する場合は、事業年度の開始前に税務署の承認を受ける必要があります。
提出書類は以下のとおりです。
「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」
(国税庁様式:C1-38)
承認を受けずに勝手に変更した場合、経費として認められない可能性がありますので要注意です。
また、変更が認められるのは、通常「3年以上継続適用したあと」かつ「合理的な理由がある場合」に限られます。
会計上の取扱いと開示義務
会計上では、償却方法の変更は「会計方針の変更」にあたります。
そのため、財務諸表への注記が必要です。
注記には次の3点を明記します。
- 変更の内容
- 正当な理由
- 損益への影響額
実際の計算例(定率法→定額法)
たとえば、以下の条件で変更したとします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取得価額 | 1,000万円 |
| 法定耐用年数 | 10年 |
| 変更時点の未償却残高 | 530万円 |
このとき、未償却残高比率は
530万円 ÷ 1,000万円 = 0.53。
国税庁の「耐用年数取扱通達付表7(定率法未償却残額表)」によれば、
0.53は「経過年数3年」に相当します。
したがって、
法定耐用年数10年 − 経過年数3年 = 残存耐用年数7年。
定額法の償却率(7年)= 0.143
→ 530万円 × 0.143 = 年間償却費 約75.8万円 となります。
最後に:会計は「経営の鏡」
減価償却は、単なる経理処理ではなく、経営方針そのものを映す鏡です。
これまで日本企業では「早期償却」を重視する定率法が主流でしたが、
今は「経営の安定性」や「国際的な整合性」を重んじて定額法を選ぶ動きが強まっています。
大切なのは、経営実態に合った方法を、根拠をもって選ぶこと。
それが、税務上も会計上も信頼される企業経営につながります。
📎 参考資料
- 国税庁タックスアンサー「No.5407 減価償却資産の償却方法の変更手続」
- 国税庁様式「C1-38 減価償却資産の償却方法の変更の承認の申請」
- 『企業実務』2025年9月号「減価償却資産の償却方法を変更する際の手続き」「減価償却資産」の償却方法を変更する際の手続き
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

