■ DXと生成AIが変える現場
経理・人事・総務の世界では、ここ数年で業務環境が劇的に変わりました。
クラウド会計、電子請求書、RPA、そして生成AI。これらの登場によって「正確・迅速・効率的」に処理するという従来のミッションは、もはや人の手を離れつつあります。
『企業実務』(2025年4月号)の調査によると、管理職の約4割が「クラウドシステムを導入済み」と回答する一方で、約3割が「まったく手を付けていない」と答えています。
同誌の分析者である藤村博之氏(労働政策研究・研修機構理事長)は、こう指摘します。
「DXが進まない最大の理由は、人件費が安いから。人にやらせた方が“安い”うちは自動化は進まない。しかし最低賃金が上がり、人材確保が難しくなる時代には、DXに踏み出さない企業が淘汰される可能性が高い」
この言葉には、業務効率化の問題を超えた「経営の覚悟」が滲んでいます。
■ “人を育てる余裕”が組織の持続力を決める
調査では、管理職・一般社員ともに共通して「人材確保」「業務量の偏り」「長時間労働」を大きな課題としています。
中でも藤村氏は、次の点を強調します。
「仕事量に対して人が足りないなら、受注を減らすか、人を増やすしかない。短期的な売上減を受け入れてでも“人を育てる余裕”を持つことが、5年後・10年後の企業力を決める」
この考え方は、“人的資本経営”という言葉が一人歩きする現代において、最も現実的なメッセージではないでしょうか。
育成のためには「余剰人員」と見なされがちな“余裕”を、むしろ経営資源として確保する必要があります。
■ 賃上げはコストではなく「未来への投資」
管理職・一般社員ともに、最も関心が高かったテーマは「賃上げ」でした。
藤村氏は明快に語ります。
「賃上げできないというのは、経営者自らが“無能”だと宣言しているようなもの。利益を出し、従業員に報いるのが経営者の役割である」
厳しい言葉ですが、これは単なる批判ではなく「人材への投資」を促す警鐘でもあります。
賃金はコストであると同時に、“経験と能力を積み上げるための先行投資”。
従業員が成長すれば、1人当たりの売上も生産性も上がり、結果として賃金上昇を可能にします。
そのために経営者が取り組むべきは――
自社の提供価値に見合わない価格での取引を「断る勇気」です。
値決めに誇りを持つ経営が、人的資本投資の循環を生み出します。
■ 管理部門が「経営を動かす時代」へ
生成AIやRPAによって定型業務が自動化される中で、経理・人事・総務が果たすべき役割は“情報処理”ではなく“意思決定支援”へとシフトしています。
『企業実務』記念号の提言でも、識者たちは次のように述べています。
- 経理は「数字を作る仕事」から「数字で経営を導く仕事」へ
- 人事は「制度運用」から「人材戦略の立案」へ
- 総務は「裏方」から「組織文化をつくる推進役」へ
つまり、管理部門の未来像とは、「経営と現場をつなぐハブ」です。
企業文化・ガバナンス・データの橋渡しを担う存在として、AI時代にこそ求められる役割があるのです。
■ 経理・人事・総務が輝くための3つの視点
最後に、これからの管理部門が意識すべきポイントを整理しておきます。
- 効率ではなく「効果」を追う
AIに任せられる業務は任せ、人が介在すべき“判断・信頼・創造”に集中する。 - 現場を知り、外に学ぶ
セミナーや業界交流を通じて「自社の常識が世の中の非常識になっていないか」を常に点検する。 - 育成のための余裕を持つ
短期の効率ではなく、長期の組織力を育てる投資姿勢を忘れない。
✳ 編集後記(note向けあとがき)
AIとDXの進展で「誰がやっても同じ仕事」は減っていく。
しかし同時に、「誰にでもできない仕事」が必ず残る。
それを支えるのが、人を理解し、数字で語れる管理部門です。
“効率化の先にある人間らしい仕事”――
それを設計するのが、これからの経理・人事・総務の使命だと私は感じます。
(参考:『企業実務』2025年4月号「時代が求める経理・人事・総務の在り方とは ― 管理部門の働き方再考」より)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

