2027年1月1日以降に始まる事業年度から、国際会計基準(IFRS)で「営業利益(Operating Profit)」の定義が統一されます。
日本ではIFRSは任意適用のため直接の影響を受ける企業は限られますが、IFRSの考え方は日本基準にも少なからず影響を与えます。
今回は、新ルール「IFRS第18号(財務諸表の表示および開示)」のポイントと、経理・経営実務への意味を整理します。
1. IFRS第18号が生まれた背景
IFRSを設定するIASB(国際会計基準審議会)は、これまでのIAS第1号(財務諸表の表示)に代わる形で、新たな表示基準としてIFRS第18号を2024年4月に公表しました。
背景には、損益計算書の比較可能性や透明性の欠如がありました。
これまでの問題点は以下の3つです。
- 企業ごとに損益計算書の区分や小計の定義が異なり、比較が難しい
- 経営者が独自に定義する業績指標(MPMs)の根拠が不明確
- 「その他」項目が多く、内訳がわかりづらい
これらの課題に対応し、投資家とのコミュニケーションを改善しようというのがIFRS第18号の狙いです。
2. 統一された「営業利益」 ― 3つの区分と2つの小計
(1)3区分の導入
新基準では、損益計算書を以下の3区分に整理することが求められます。
| 区分 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 営業区分 | 企業の主要な事業活動から生じる収益・費用 | 売上、販管費、研究開発費など |
| 投資区分 | 投資活動から生じる収益・費用 | 持分法投資損益、受取利息など |
| 財務区分 | 資金調達活動に関する収益・費用 | 借入金利息、社債利息など |
これにより、営業利益が間接的に定義されました。
従来のように企業ごとに異なる定義を用いることがなくなり、
「営業利益の比較がしやすくなる」ことが最大のメリットです。
(2)新たな小計 ― 「営業利益」と「財務・法人税前利益」
損益計算書に2つの小計が追加されます。
- 営業利益(Operating Profit)
- 財務及び法人所得税前利益(Profit before financing and income tax)
この統一により、キャッシュ・フロー計算書との整合性も高まりました。
営業キャッシュ・フローの出発点も「営業利益」に変更され、
従来の「税引前利益」よりも実態に即した構造になります。
3. 経営者が定義した業績指標(MPMs)の開示義務
もう一つの重要な変更が「MPMs(Management-Defined Performance Measures)」の開示義務化です。
これは、経営者が独自に重視する利益指標(例:EBITDA、コア利益など)を意味します。
新基準では、以下の開示を求めています。
- 指標の定義と算出方法
- IFRSの小計との関係(調整表の提示)
- 変更理由の説明
これにより、「経営者の言う“利益”」がどのように算出されているか、投資家や分析者が正確に理解できるようになります。
企業にとっては、“自社らしさ”を正しく伝える指標開示の重要性が高まるといえるでしょう。
4. 「その他」項目の厳格化と情報の分解原則
従来、「その他の営業費用」「その他の収益」として多額の項目がまとめられるケースがありました。
新ルールでは、「その他」という表現の使用を厳格化し、可能な限り内容を具体的に開示することが求められます。
また、情報を「共通の特徴で集約し、異質なものは分解する」という原則も明確化。
財務諸表の透明性と可読性を高め、投資家が必要な情報をより正確に把握できるようになります。
5. キャッシュ・フロー計算書の変更点
従来、受取利息や支払配当金などは「営業」「投資」「財務」区分のいずれに計上するかを企業が選択できました。
しかし新基準では選択の余地がなくなり、
- 受取利息・受取配当金 → 投資区分
- 支払利息・支払配当金 → 財務区分
に統一されます。
これにより、キャッシュ・フロー計算書間の比較可能性が向上します。
6. IFRSと中小企業の関係 ― 今後への示唆
日本でIFRSを適用している企業は約280社と全体の7%ほどですが、時価総額ベースでは50%近くに上ります。
すなわち、大企業を中心にIFRSが実質的な「国際共通語」になりつつあるといえます。
中小企業にとっては直接適用の可能性は低いものの、
収益認識やリースなど近年の日本基準がIFRSを参照して策定されている点を踏まえると、
将来的に「損益計算書の構造」がIFRSに近づくことは十分に想定されます。
経営者や経理担当者にとっても、
「IFRS第18号の思想=透明性・比較可能性・整合性」を理解しておくことが、
これからの会計・開示の流れをつかむうえで有用です。
✏️まとめ:営業利益の「共通言語化」が進む時代へ
これまで企業によってバラバラだった「営業利益」が、
いよいよ国際的に“共通言語”として整備されます。
投資家・経営者・会計人が同じ基準で業績を語れる時代がやってくる――
それがIFRS第18号の本質です。
日本基準でも「透明性」と「比較可能性」の流れは止まりません。
中小企業にとっても、財務諸表を外部との対話のツールとして磨く時代が始まっています。
📚参考文献
吉岡博樹「『営業利益』のルール統一 国際会計基準(IFRS)の新ルールを確認しよう」『企業実務』2025年4月号
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

