「なぜ投資用不動産の相続税ルールが見直されるのか」──背景にある節税スキームと公平性のゆがみ

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投資用不動産を利用した相続税の節税策が、多くの富裕層の間で一般的に用いられるようになりました。
しかし近年、その一部が「相続直前の高額不動産購入による、過度な評価圧縮」という問題を引き起こし、政府・与党は評価ルールの全面的な見直しに踏み切ろうとしています。

今回は、制度見直しの背景にある「ゆがみ」がどこにあるのかを整理し、なぜ今、抜本的な改正が検討されているかをわかりやすく解説します。

1.相続税は“評価額”で負担が決まる

相続税の計算は、財産そのものの価値ではなく、「相続税法上の評価額」で行われます。
特に不動産は、以下のように実勢価格より低い評価となることがよくあります。

  • 土地 → 路線価(実勢価格の7〜8割が多い)
  • 建物 → 固定資産税評価額(さらに低め)

賃貸マンションなどは借主がいることで自由に使えないため、評価額がさらに下がる傾向があります。

2.実勢価格と評価額の“乖離”が節税に利用された

問題となったのは、この「評価額の低さ」が過度に利用されるケースが増えたことです。

典型的なスキームは次の通りです。

  • 相続直前に数億円の賃貸マンションを購入
  • 実勢価格に比べて、相続税評価額は大幅に低い(4〜6割など)
  • 現金のまま相続するより税額が大きく減る

つまり、相続直前に不動産へ組み替えることで、税負担を人為的に下げることが可能だったという問題があります。

もともと不動産投資として成立しているものが評価上低くなるのは合理性がありますが、「相続数カ月前」「短期で利益目的ではなく節税目的」というケースが急増したことが問題視されました。


3.タワマン節税に続き、“賃貸不動産”へ焦点が移った

2024年には、実勢価格よりも著しく評価額が低くなる「タワーマンション節税」への是正措置が行われました。
しかし、次のような抜け穴が残されていました。

  • 高額タワマン → 是正済み
  • 賃貸用マンション → 抜け穴
  • 不動産小口化商品 → 抜け穴

タワマンに比べて、賃貸用不動産は“自由に利用できない制約”が評価額を押し下げる要因になるため、さらに大きな節税効果が出るケースもありました。


4.小口化商品でも節税スキームが拡大

最近では、個人投資家が少額から参加できる「不動産小口化商品」を利用した節税事例も増えています。

ポイントは

  • 実勢価格より低い評価
  • 低額で持分を購入できる
  • 相続人ごとに分けやすい

といった点で、節税目的の購入が目立ち始めました。

国税庁はこれを「制度趣旨から逸脱」と判断し、小口化商品も見直し対象に含めています。


5.税負担の公平性をどう考えるか

税制の大原則は「公平・中立・簡素」です。
しかし、現行制度のままでは次のような不公平が生じやすい状況でした。

  • 同じ2億円を相続しても
    • 現金 → 評価額2億円
    • 賃貸不動産 → 評価額1億円以下も(ケースによる)

これでは、資産の形を変えるだけで税負担が大きく変わるというゆがみが生まれてしまいます。

制度改正の議論の根底には、こうした不公平を是正し、「実勢価格に近い評価を適用する必要性」があります。


結論

投資用不動産を利用した相続税節税は、長年行われてきた手法ですが、その一部が制度の趣旨を逸脱し、節税効果を過度に引き出すことにつながっていました。

  • 実勢価格と評価額の大きな乖離
  • 相続直前の短期購入
  • 小口化商品による新たな節税スキーム

これらが積み重なり、政府・与党は抜本的な見直しに動き始めています。

次回の第2回では、検討されている 「購入価格ベース評価」方式の具体的な仕組み について詳しく解説します。


出典

・日本経済新聞(マンション投資節税に関する報道)
・政府・与党 税制調査会資料
・国税庁 公表資料(相続税評価基準・タワマン評価見直し)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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