人生100年時代のいま、誰にとっても避けて通れないのが「人生の最終盤をどう迎えるか」というテーマです。とりわけ家族を頼りにくい高齢者が増えるなか、金銭管理や入院・施設入所の手続き、さらには葬儀・遺品整理など、かつて家族が担ってきた機能を誰が支えるのかが大きな課題になっています。
一人暮らしの高齢者は今後も増え続けます。家族がいても頼れないケースも珍しくなく、「おひとりさま」として老後を迎える人は社会全体で確実に増えていきます。こうした現実を正面から見据え、社会全体で支える仕組みを整えることが欠かせません。
一人暮らし高齢者は今後30年間で1.5倍に
高齢社会白書によると、2050年には一人暮らしの高齢者が1084万人に達し、2020年比で約1.5倍になる見通しです。日本総合研究所の推計では、うち4割が「おい・めいなど3親等以内の親族がいない」状態になります。
さらに、家族がいる場合でも、地理的な距離や家庭事情から「実質的に頼れない」ケースが増えています。日本総研ではこれらを含めて「家族の有無にかかわらず頼り先がないリスクの高い人」を広く「おひとりさま」と定義しています。
老後の困難は「金銭管理」と「意思決定」
おひとりさまが直面する代表的な困りごとは次の2つです。
- 金銭管理の難しさ
認知機能が低下すると、日常的な入出金管理や支払い手続きが難しくなります。 - 入院・入所の意思決定と契約
介護サービスの利用や施設入所には、多くの契約と支払いが伴います。
こうした手続きには、医療機関や施設が求める「身元保証」の課題が必ずついてきます。入院時の保証人、費用支払い、退院後の自宅整理、死亡時の遺体引取り、葬儀・埋葬など、暮らしと人生の締めくくりの多くが「支え手の不在」で滞りやすくなっています。
急増する「民間の身元保証・死後事務サービス」
家族の代わりに支援する民間事業者も増えています。「高齢者等終身サポート事業」の名称で、身元保証や死後事務をワンストップで扱う企業は全国に400社程度といわれます。しかし質は玉石混交で、預託金を巡るトラブルや不透明な契約内容が問題視されてきました。
中には数百万円を預けたり、死後の財産を業者に残す「死因贈与」契約を結ぶケースもあり、サービス提供側に「サービスを増やすほど取り分が増える」という利益相反構造を抱えることもあります。
2024年には国が業者向けの指針を示しましたが、強制力はありません。こうした課題を受け、業界団体の設立が進み、自己規律を高めようとする動きは社会にとって明るい材料といえます。
公的支援も変わりつつある
民間だけに任せず、公的支援を強化する動きも進んでいます。厚生労働省は全国の社会福祉協議会(社協)が入院・入所時の支援や死後事務まで幅広く対応できるよう、2026年度にも社会福祉法を改正する方針です。
現在、社協は判断能力が低下した人向けに「日常生活自立支援事業」を行っていますが、これをさらに拡大して全国展開する方向です。ただし、社協自身が人手不足に苦しんでいる現状もあり、民間業者と連携しながら支援体制を構築していく必要があります。
個人ができる備えも増えている
制度整備を待つだけではなく、私たち個人にもできる備えがあります。
- エンディングノートに希望を書く
- 任意後見契約の検討
- 生前整理・情報整理
- 医療・介護の意思を家族や支援者に伝える
- 身元保証サービスのリスクを理解して選ぶ
とくに「どのような最期を迎えたいか」「金銭管理は誰に託すか」は、後回しにすると判断能力の低下によって決められなくなる可能性があります。
結論
家族だけに頼ることが難しくなる時代に、人生の最終盤を支える仕組みを社会全体で整えていくことが欠かせません。民間サービスが広がるなかで質の確保が課題となり、公的支援も体制整備の途上にあります。
だからこそ、私たち一人ひとりが早めに準備を始めることが重要です。老後の暮らし方や最期の迎え方を自分の意思で選び、必要な支えを得られるように整えておく。人生100年時代の安心は、その一歩から始まります。
出典
・日本経済新聞(2025年11月24日朝刊)
・高齢社会白書
・日本総合研究所 各種推計資料
──────────────────
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

