人工知能(AI)とともに育つα(アルファ)世代は、これまでの世代とは異なる社会参加の感覚を持っているといわれます。政治的分極化や社会的対立が深まる中で、彼らは分断を乗り越える存在となり得るのでしょうか。本稿では、台湾の初代デジタル相である オードリー・タン 氏の発言を手がかりに、AIと民主主義の将来像を考えます。
α世代は「デジタルの消費者」ではない
オードリー・タン氏は、α世代を単なるデジタルネーティブではなく、「AIと共存するデジタルの住人」と表現しています。彼らにとってデジタル空間は、完成されたサービスを受け取る場ではなく、自ら参加し、形づくる市民空間です。
象徴的なのが、オンラインゲームや仮想空間を基盤としたコミュニティーです。そこでは、年齢や国籍、政治的立場を超えて協働する経験が日常的に行われています。意見の違いを消し去るのではなく、違いを前提に合意点を探る感覚が、すでに生活の一部になっている点は見逃せません。
分断の原因は「人」ではなく「設計」にある
米国を中心に、政治や社会の分極化が深刻化しています。しかしタン氏は、これは避けられない価値観の衝突ではなく、「分断を増幅するよう設計された技術」の問題だと指摘します。
怒りや中毒性を最大化するアルゴリズムに支配されたメディア環境では、相互理解が難しくなります。対立は自然発生的なものではなく、特定の設計思想によって強化されている側面があるという見方です。
重要なのは、分極化を排除すべき異常事態と捉えるのではなく、社会再生のエネルギーとして扱えるかどうかです。適切な仕組みを用いれば、対立は必ずしも破壊的な結果をもたらすものではありません。
「ブロードリスニング」という実践
タン氏が実際に関わっている取り組みとして、米カリフォルニア州で進められている「エンゲージド・カリフォルニア」が紹介されています。ロサンゼルスの山火事対応をテーマに、立場の異なる意見を可視化し、共通点を見いだす対話の場を設計しました。
ここで重要なのは、特定のイデオロギーに寄せることではなく、「多様な意見をそのまま扱う」点です。その結果、政治的立場を超えた合意形成が実現したといいます。分断は幻想であり、適切な設計によって緩和できるという実証例といえるでしょう。
市民AIは格差を広げるのか、縮めるのか
AIが労働や教育を大きく変える中で、格差拡大への懸念は根強くあります。タン氏も、AIが一部のエリートに独占されれば、不平等は深刻化すると認めています。
一方で、地域の言語や文化に基づいて訓練されたオープンな「市民AI」を活用すれば、状況は逆転し得ると述べています。学校で市民AIをチームコーチとして活用すれば、学習支援は特権ではなくなります。
新興国が先行する可能性
興味深いのは、新興国がこの分野で先行する可能性です。インドやアフリカ諸国では、既存制度の制約が少ない分、市民AIを活用した解決策を迅速に実装できる余地があります。
これは、従来の「先進国が教え、新興国が学ぶ」という構図とは逆の流れです。コミュニティーや信頼を生む技術設計において、新興国が先進国に示唆を与える可能性も十分に考えられます。
おわりに――制度と技術の間にあるもの
α世代とAIの関係は、単なる技術革新の話ではありません。どのような価値観を前提に制度を設計するのかという、極めて政治的・社会的な問題です。
AIは分断を深める道具にも、協働を支える基盤にもなり得ます。その分かれ道を決めるのは、技術そのものではなく、私たちの選択です。α世代が直感的に理解している「違いを抱えたまま協力する社会」は、大人世代にとっても学ぶべきヒントを含んでいるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞「〈α-20億人の未来〉α世代、AIと分断超越 新興国が先行の可能性」(2026年1月12日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

