ROEで見る中小企業診断(第3回:医療・介護業編)― “安定黒字”の裏に潜む資本効率の落とし穴 ―

医療・介護業は「利益が出ても資金が残りにくい」

医療法人や介護事業所では、
決算上は黒字でも、手元資金が増えにくいケースがよくあります。

その理由は、次の3つに集約されます👇

  1. 人件費比率が高い(人材依存型産業)
  2. 設備投資が重い(建物・医療機器・車両など)
  3. 補助金・保険報酬が入金まで時間がかかる

この構造により、ROE(自己資本利益率)が上がりづらくなります。
黒字=効率的ではない、という点が他業種と大きく異なります。

「黒字経営なのに資本効率が低い」
― ここに、税理士が支援できる“改善余地”があります。


医療・介護業のROE構造を整理する

要素業界の特徴改善の視点
売上高純利益率安定しているが薄い(1〜3%程度)稼働率・単価・補助金の使い方
総資産回転率設備投資・土地建物で低下しがち稼働率・償却資産の見直し
財務レバレッジ借入が多く、自己資本比率が低下資金繰りと返済スケジュール管理

特に、総資産回転率の低さが最大の課題です。
固定資産の比率が高く、稼働率が下がると一気にROEが悪化します。


事例③:医療法人C会のケース

  • 売上(医業収益):10億円
  • 当期純利益:1,000万円(利益率1%)
  • 総資産:8億円(うち固定資産6億円)
  • 自己資本:4億円

👉 ROE = 1,000万円 ÷ 4億円 = 2.5%

黒字ではあるものの、ROEは2.5%。
同業平均(4〜5%)よりも低めです。

分解してみると――

指標数値コメント
売上高純利益率1.0%診療報酬の上限があり、改善余地は限られる
総資産回転率10億 ÷ 8億 = 1.25回稼働率85%・償却資産多い
財務レバレッジ8億 ÷ 4億 = 2倍借入返済が続く

つまり、「利益を増やすより、資産の回転を上げることが最も効果的」。
稼働率を上げたり、非稼働資産を整理したりすることが、
ROE改善につながるポイントになります。


税理士ができる「医療・介護業のROE改善支援」

① 稼働率・単価・報酬の“トリプル分析”

医療・介護業では、売上=稼働率×単価×稼働日数。
つまり、「患者(利用者)の動き」を財務に落とし込むことがROEの第一歩です。

支援のポイント

  • 稼働率が80%を下回る施設を特定し、採算性を検討
  • 医療報酬・介護報酬の改定に合わせた単価戦略を提案
  • 収益構造を“固定費+変動費”で整理し、損益分岐点を明確化

💬 「稼働率が5%上がるだけで、ROEは1ポイント改善します」
と伝えると、経営者の数字感覚がぐっと変わります。


② 設備投資と減価償却の最適化

医療・介護業では、建物・医療機器・送迎車などの設備投資が大きく、
固定資産がROEを押し下げる原因になります。

支援のポイント

  • 新規設備のROI(投資利益率)を事前試算
  • 遊休資産や老朽化設備の除却・リース化提案
  • 建替・拡張時の資金計画にROE目線を組み込む

💡 “建てる”前に“回す”を考える。
建物を新しくするより、稼働率を上げるほうがROE改善効果が大きい場合もあります。


③ 補助金・助成金の活用とキャッシュマネジメント

補助金や助成金はROEを直接上げるわけではありませんが、
自己資本を減らさずに投資できる=資本効率を守る効果があります。

支援のポイント

  • 補助金活用での資金流出抑制(医療機器導入・ICT化)
  • 入金タイミングを考慮した資金繰り表の整備
  • 「補助金頼み」から「稼ぐ構造」への転換支援

💬 「補助金は利益を増やすのではなく、ROEを守る仕組みです」
と説明すると、経営者の理解が深まります。


医療・介護業のROEは「人」と「資産」の両輪で考える

医療・介護業の経営は、数字だけでは測れません。
職員の働きやすさ・地域との信頼関係・サービス品質――。
これら“社会的資本”を守りながら、財務資本の効率を上げることが求められます。

ROEを活用すれば、

「この施設は社会的にも経済的にも持続可能か」
という問いを、数字で語れるようになります。


【まとめ】医療・介護業のROE診断ポイント

観点主なチェック項目税理士の支援アプローチ
利益率稼働率・報酬単価・人件費比率稼働分析・原価構造の明確化
資産効率固定資産・減価償却費・遊休資産設備投資ROI・リース化提案
資本構成借入金・補助金・自己資本比率キャッシュ管理・補助金戦略

まとめ:ROEは「経営者と税理士の共通言語」

医療・介護業は、
「利益を出す」よりも「続ける」ことに重きが置かれる業界です。
だからこそ、**ROE=“持続性を測る指標”**としての意味が大きくなります。

税理士がROEを通して、

「資本をどう守り、どう活かすか」
を経営者と一緒に考える。

それが、数字で信頼を築く顧問関係の第一歩になるのです。


出典

出典:2025年10月11日 日本経済新聞朝刊
「株式投資、『変革』銘柄の選び方」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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