ECの普及、コロナ禍による店舗休業、購買行動の変化――。
ここ10年間で日本の商業施設市場は大きな転換点を迎えました。「商業施設は厳しい」というイメージが一般的になりつつある一方、地域密着型のショッピングセンターや生活必需品を中心とした施設はむしろ堅調に推移するなど、実態はより複雑です。
商業REITは、商業施設を保有し、賃料収入を得る仕組みです。百貨店や大型ショッピングモール、地域密着型のショッピングセンター(SC)まで対象は幅広く、テナント構成の違いで収益特性も大きく変わります。
今回は、商業REITが抱える課題と、依然として生き残る理由を分かりやすく整理します。
● 商業REITとはどのようなセクターなのか
商業REITは以下のような施設を保有します。
- 大型ショッピングモール
- 地域密着型ショッピングセンター(スーパー・ドラッグストア中心)
- アウトレット
- 百貨店
- 路面商業施設
商業施設は「モノを売る場」から「時間を過ごす場」へと進化しており、テナントの多様化が進んでいます。
食品スーパー、ドラッグストア、フィットネス、クリニック、サービス店舗など、生活動線に組み込まれやすい業態の存在感が増しています。
● EC時代でも“消えない商業施設”
EC市場が急成長する中でも、商業施設が完全に不要になるわけではありません。
その理由は次の通りです。
■ 食品・日用品など「即時性需要」はECと代替しにくい
特に
- 食品スーパー
- ドラッグストア
- 100円ショップ
などは、価格競争力・利便性の高さから依然として強い人気があります。
■ 体験価値の高い分野は店舗が強い
- 美容院
- 医療・クリニック
- 飲食
- フィットネス
- キッズ向け教室
などは店舗体験が必要でEC代替が困難です。
■ 地域密着型SCは生活インフラ
特に郊外型ショッピングセンターは、車社会と相性が良く、生活圏の中核施設として機能します。
● 商業REITの強み
商業REITには次のような利点があります。
■ テナント構成の多様化でリスクが分散
1つのテナントが退去しても影響が局所的にとどまります。
■ 生活必需品テナントは景気に左右されにくい
商業施設の中でも“生活必需業態”(スーパー、ドラッグストア)は安定性が高いのが特徴です。
■ 長期契約が多く収益が読みやすい
テナントとは中期〜長期の契約が多く、賃料収入が比較的安定しています。
● 商業REITが抱える課題
商業REITには構造的なリスクも存在します。
■ 百貨店モデルの弱体化
特に都心立地以外の百貨店は苦戦が続き、商業REITでも再生が課題のケースがあります。
■ 大型ショッピングモールの競争激化
郊外型モール同士の競争が激しく、
- リニューアル費用
- 空き区画のテナント誘致
などが収益を圧迫する可能性があります。
■ ECの代替が効く分野では売上が伸びにくい
アパレルなどはECシフトが進んでおり、テナントの入れ替わりが激しくなる傾向があります。
● 商業REITを見る際の注目ポイント
商業REITの分析では、次の点を押さえることが重要です。
- テナント構成(生活必需業態の比率)
- 物件の立地(住宅地の中心・駅前・幹線道路沿い)
- テナントの売上連動賃料(変動賃料)比率
- リニューアル計画の充実度
- 一本足打法になっていないか(特定モール依存)
特に、生活必需品テナントが多い商業REITは不況耐性が高く、安定的な賃料が見込めます。
結論
商業REITは、ECの普及で構造的な変化が続いているものの、食品・日用品や生活サービスを中心とした“生活インフラ型の商業施設”は依然として強い需要があります。テナントの多様化や地域密着型施設の安定性により、賃料収入が比較的安定している点は大きな魅力です。
一方で、百貨店型や大型モールの競争激化など、物件によって収益性は大きく変わるため、個別物件の特徴を丁寧に確認することが重要です。
次回の第6回では、最近注目が高まっている物流REITについて、需給改善やNAV倍率の視点から詳しく解説します。
出典
・日本ショッピングセンター協会データ
・経済産業省「商業動態統計」
・各種REIT決算資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
