REITシリーズ 第5回「商業REITの現在地 ― EC時代でも“消えない商業施設”の強さと課題」

FP
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ECの普及、コロナ禍による店舗休業、購買行動の変化――。
ここ10年間で日本の商業施設市場は大きな転換点を迎えました。「商業施設は厳しい」というイメージが一般的になりつつある一方、地域密着型のショッピングセンターや生活必需品を中心とした施設はむしろ堅調に推移するなど、実態はより複雑です。

商業REITは、商業施設を保有し、賃料収入を得る仕組みです。百貨店や大型ショッピングモール、地域密着型のショッピングセンター(SC)まで対象は幅広く、テナント構成の違いで収益特性も大きく変わります。

今回は、商業REITが抱える課題と、依然として生き残る理由を分かりやすく整理します。

● 商業REITとはどのようなセクターなのか

商業REITは以下のような施設を保有します。

  • 大型ショッピングモール
  • 地域密着型ショッピングセンター(スーパー・ドラッグストア中心)
  • アウトレット
  • 百貨店
  • 路面商業施設

商業施設は「モノを売る場」から「時間を過ごす場」へと進化しており、テナントの多様化が進んでいます。
食品スーパー、ドラッグストア、フィットネス、クリニック、サービス店舗など、生活動線に組み込まれやすい業態の存在感が増しています。


● EC時代でも“消えない商業施設”

EC市場が急成長する中でも、商業施設が完全に不要になるわけではありません。

その理由は次の通りです。

■ 食品・日用品など「即時性需要」はECと代替しにくい

特に

  • 食品スーパー
  • ドラッグストア
  • 100円ショップ
    などは、価格競争力・利便性の高さから依然として強い人気があります。

■ 体験価値の高い分野は店舗が強い

  • 美容院
  • 医療・クリニック
  • 飲食
  • フィットネス
  • キッズ向け教室
    などは店舗体験が必要でEC代替が困難です。

■ 地域密着型SCは生活インフラ

特に郊外型ショッピングセンターは、車社会と相性が良く、生活圏の中核施設として機能します。


● 商業REITの強み

商業REITには次のような利点があります。

■ テナント構成の多様化でリスクが分散

1つのテナントが退去しても影響が局所的にとどまります。

■ 生活必需品テナントは景気に左右されにくい

商業施設の中でも“生活必需業態”(スーパー、ドラッグストア)は安定性が高いのが特徴です。

■ 長期契約が多く収益が読みやすい

テナントとは中期〜長期の契約が多く、賃料収入が比較的安定しています。


● 商業REITが抱える課題

商業REITには構造的なリスクも存在します。

■ 百貨店モデルの弱体化

特に都心立地以外の百貨店は苦戦が続き、商業REITでも再生が課題のケースがあります。

■ 大型ショッピングモールの競争激化

郊外型モール同士の競争が激しく、

  • リニューアル費用
  • 空き区画のテナント誘致
    などが収益を圧迫する可能性があります。

■ ECの代替が効く分野では売上が伸びにくい

アパレルなどはECシフトが進んでおり、テナントの入れ替わりが激しくなる傾向があります。


● 商業REITを見る際の注目ポイント

商業REITの分析では、次の点を押さえることが重要です。

  1. テナント構成(生活必需業態の比率)
  2. 物件の立地(住宅地の中心・駅前・幹線道路沿い)
  3. テナントの売上連動賃料(変動賃料)比率
  4. リニューアル計画の充実度
  5. 一本足打法になっていないか(特定モール依存)

特に、生活必需品テナントが多い商業REITは不況耐性が高く、安定的な賃料が見込めます。


結論

商業REITは、ECの普及で構造的な変化が続いているものの、食品・日用品や生活サービスを中心とした“生活インフラ型の商業施設”は依然として強い需要があります。テナントの多様化や地域密着型施設の安定性により、賃料収入が比較的安定している点は大きな魅力です。

一方で、百貨店型や大型モールの競争激化など、物件によって収益性は大きく変わるため、個別物件の特徴を丁寧に確認することが重要です。

次回の第6回では、最近注目が高まっている物流REITについて、需給改善やNAV倍率の視点から詳しく解説します。


出典

・日本ショッピングセンター協会データ
・経済産業省「商業動態統計」
・各種REIT決算資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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