REITを“金利と不動産”で読み解く ― 分配の質と資本政策(第5回)

FP

日銀が異次元緩和の出口戦略の一環として、REIT(不動産投資信託)の売却を決定しました。規模はETFに比べれば小さいものの、金利と不動産市場の動向に直結する商品であるため、私たち投資家や家計にも示唆があります。

本記事では、REITを「金利」と「不動産」の両面から読み解き、分配金の質資本政策に注目していきます。


1. REITとは? ― 仕組みの基本

REIT(Real Estate Investment Trust)は、多くの投資家から資金を集めてオフィスビル、商業施設、物流施設、住宅などの不動産に投資し、賃料収入や売却益を投資家に分配する仕組みです。

  • 収益源:主に賃料収入
  • 分配金:利益の90%以上を分配すれば法人税が免除される仕組み
  • 価格の動き:金利、不動産市況、需給の影響を受けやすい

2. 日銀が保有するREITと売却ペース

  • 保有残高:簿価6,500億円、時価7,000億円(2025年3月末)
  • 年間売却額:簿価50億円、時価55億円程度
  • 売却ペース:市場全体の売買代金の 約0.05%

規模としてはETFに比べてはるかに小さく、需給への直接的な影響は限定的。ただし「日銀が売り手に回る」という象徴的意味は大きいといえます。


3. 金利とREIT ― なぜ敏感なのか?

REITの価格は金利に強く反応します。

  • 金利上昇 → REIT価格に逆風
     借入コスト上昇、利回り競争力低下
  • 金利低下 → REIT価格に追い風
     資金調達が有利、配当利回りが相対的に魅力化

例えば、10年国債利回りが上昇すれば、REITの分配利回りが見劣りし、投資資金が債券にシフトする傾向が強まります。


4. 不動産市況とREIT ― 「収益の質」をどう見るか?

REITの基盤はあくまで不動産の賃料収入です。注目すべきは「どんな物件に投資しているか」「収益の安定性はどうか」。

  • オフィス系:景気動向やテレワーク普及の影響を受けやすい
  • 物流系:EC需要拡大で長期的に安定しやすい
  • 住宅系:都市部人口集中で底堅い
  • 商業系:インバウンドや消費動向に左右される

分配金の多寡だけでなく、キャッシュフローの安定度(収益の質)が評価の鍵となります。


5. 資本政策 ― LTVと増資のチェック

REITの健全性を見るうえで重要なのが資本政策です。

  • LTV(Loan to Value)比率:総資産に占める借入金の割合
     → 高すぎると金利上昇時にリスク増大
  • 増資リスク:新規物件取得や借入返済のために増資が行われる場合、1口あたり分配金が希薄化する可能性あり

投資判断では「利回り」だけでなく、借入金管理や資本調達方針に目を配ることが大切です。


6. 個人投資家にとっての実務ポイント

  • 分散投資の一部として活用:株や債券と異なる値動き特性
  • 金利シナリオを意識:利上げ局面ではリスク管理を厚めに
  • 銘柄選別重視:物流・住宅系など安定収益型を優先するのも一案
  • 分配金の「額」より「質」:一時的な売却益頼みより、安定賃料収入重視が安心

まとめ

日銀によるREIT売却は市場全体に大きなショックを与える規模ではありません。しかし「中央銀行が不動産市場から徐々に退場する」という流れは、長期的にREIT市場を自立的に鍛える契機になります。

私たち個人投資家にとって大事なのは、

  • 金利動向に敏感な商品であることを理解すること
  • 収益の安定性や資本政策を吟味すること
  • 分散投資の中で無理なく位置づけること

ETFと並ぶ出口戦略の対象としてREITを見直すことで、自分の投資姿勢を点検するきっかけにしていきたいものです。


👉 本記事は 2025年9月19〜20日付 日本経済新聞 各面の報道を参考に構成しました。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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