前回は、50代・60代からの資産運用において、リスクをどう管理するかという考え方を整理しました。
その流れで、実務的に避けて通れないのが、少額投資非課税制度の活用です。
NISAは投資のための制度というイメージが強いかもしれませんが、老後資金という視点で見直すと、使い方や注意点が変わってきます。今回は、新旧制度を整理しながら、老後資金にどう位置づけるかを考えます。
NISAは老後資金のための制度なのか
NISAは、投資で得た利益に税金がかからない制度です。
老後資金のために必ず使わなければならない制度ではありませんが、長期で資産を運用する場合、税負担を抑えられる点は大きなメリットになります。
老後資金にNISAを使う場合の前提は、生活費としてすぐに使わない資金を対象にすることです。流動性資金や安全性資金を確保したうえで活用する必要があります。
新しいNISA制度の基本構造
新しいNISA制度では、つみたて投資枠と成長投資枠の二つが用意されています。
それぞれ投資できる商品や年間の投資上限が異なりますが、共通しているのは、運用益が非課税である点です。
老後資金という観点では、長期・分散投資に適した商品を選び、短期の売買を前提としない使い方が基本になります。
成長投資枠と老後資金
成長投資枠は、年間でまとまった金額を投資できる点が特徴です。
年末に余裕資金がある場合や、資産配分を見直した結果、リスク性資金を増やしたい場合に活用しやすい枠と言えます。
ただし、老後資金では、一度に大きな金額を投じること自体が心理的な負担になることもあります。自分のリスク許容度を踏まえ、無理のない金額設定が重要です。
つみたて投資枠と老後資金
つみたて投資枠は、時間を分散して投資する仕組みです。
老後までの期間が10年以上ある場合、価格変動の影響を抑えながら運用を続けやすいという特徴があります。
毎月一定額を積み立てることで、相場の上下に一喜一憂せず、長期で資産形成を行うことができます。老後資金では、こうした仕組みが精神的な安定につながるケースも多く見られます。
旧NISAの非課税期間終了にどう備えるか
旧制度の一般NISAを利用している場合、非課税期間の終了は重要な確認事項です。
非課税期間が終わると、資産は課税口座に移されます。
含み益が出ている資産は、売却して新しいNISA制度で買い直すことで、非課税のメリットを引き続き活用する方法があります。
一方、含み損がある資産は、課税口座で保有することで、将来の損益通算に備えるという考え方もあります。
NISAでやってはいけないこと
老後資金としてNISAを使う際に避けたいのは、短期の値動きに振り回されることです。
非課税というメリットがあるからといって、頻繁に売買を行うと、本来の目的から外れてしまいます。
また、生活費に近い資金を無理にNISAで運用することも避けるべきです。老後資金では、制度よりも資金の性格を優先して考える必要があります。
結論
NISAは、老後資金を増やすための魔法の制度ではありません。
しかし、資産の役割を整理し、長期で使わない資金を対象にすれば、老後資金の実質的な価値を守る手段の一つになります。
次回は、老後資金を「どう増やすか」ではなく、「どう使うか」という視点から、取り崩しと税金の基本について整理します。老後資金の出口を意識することが、これからの時代には欠かせません。
参考
日本経済新聞
老後資金、棚卸しで点検――インフレ考慮し運用戦略を(2025年12月20日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
