2025年9月末時点で、国際会計基準(IFRS)を任意適用している、あるいは適用を決めている日本企業がついに300社に達しました。
時価総額ベースでは日本の株式市場の約半分。さらに「適用を検討中」の企業を加えれば、市場の過半がIFRSベースという時代に入っています。
トヨタもソニーもソフトバンクも――“世界基準”が当たり前に
IFRSを採用しているのは、トヨタ自動車、ソニーグループ、日立製作所、ソフトバンクグループなど、日本を代表するグローバル企業ばかりです。
グローバル投資家にとっては、世界中の企業を同じ物差しで比較できるIFRSの方が理解しやすい。投資家との対話を重視する企業ほど、自然とIFRSを選ぶ流れになっているといえます。
非上場企業でも、JERAのように経営の透明性を高めるためにIFRSを自主的に採用するケースが出ています。
日本基準の時代が「終わる」というより、国際比較を意識した経営が主流になる転換点を迎えているのです。
IFRSとは?「世界共通の会計言語」
IFRS(International Financial Reporting Standards)は、欧州を中心に世界140カ国以上で使われる国際的な会計基準です。
目的はシンプルで、「企業間の比較可能性を高めること」。
たとえば、同じ家電業界でも、ソニーとサムスン、アップルの決算を並べて比較できるのはIFRSの強みです。
比較が容易になることで、投資家の理解が深まり、企業の資本コスト(お金を集めるコスト)が下がるという効果も期待されています。
「のれん」会計の違いが焦点に
今、会計基準をめぐる最大の論点は、M&A(企業買収)で生じる「のれん」の扱いです。
のれんとは、買収した企業の資産・負債の価値を上回る「ブランド価値」や「顧客ネットワーク」などの無形価値を指します。
- 日本基準では「のれん」は一定期間で定期償却(費用化)します。
- IFRSでは「償却はせず」、価値が下がったときにだけ減損処理(評価損)します。
この違いは、企業の利益や株価に直接影響します。
たとえば、IFRSを採用すれば一時的に利益を押し上げやすくなり、成長企業にとっては魅力的に見えることもあります。
ただし、単純に「非償却=M&Aが進む」とは限りません。
投資家にとって大切なのは「利益の見せ方」ではなく、「将来の成長力をどう説明できるか」だからです。
IFRS選択は“成長戦略”の一部
会計基準の選択は単なるルールの問題ではありません。
IFRSを導入することで、世界の投資家に向けて自社を“見せる”戦略をとることができます。
比較可能性が高まることで、海外機関投資家が投資判断をしやすくなり、結果的に株価の評価や資本調達コストに影響する可能性があります。
これはまさに、会計を経営戦略に組み込む発想です。
東証プライム市場は「IFRS標準化」へ?
現状では日本基準とIFRSを企業が自由に選べます。
しかし、時価総額の半分以上がIFRSで決算を公表する今、「プライム市場ではIFRSを義務化すべきだ」という声も現実味を帯びてきました。
日本的経営の慣行や準備コストの問題から慎重論も根強いですが、世界の潮流は確実にIFRSに傾いています。
IFRS300社時代の到来は、もはや“国際会計の周辺”ではなく、“主流”の変化といえるでしょう。
まとめ:会計の「国際共通語化」は経営の透明化でもある
IFRSの目的は「理論の勝ち負け」ではなく、世界の投資家に開かれた経営情報を提供することです。
企業がグローバルに資金を集め、持続的な成長を実現するための“共通言語”が会計基準になりつつあります。
これから数年で、日本の上場企業の決算書の半分以上がIFRSベースになるでしょう。
それは単に会計の形式が変わるという話ではなく、企業の見せ方、投資家との対話、そして経営の透明性が変わるということなのです。
📘出典・参考
2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「IFRSに染まる株式市場」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

