確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo)の受取方法には、一時金、年金、併用の三つがあります。2026年1月から適用される新しい「10年ルール」を踏まえると、受取方法の選択はこれまで以上に慎重な検討が求められます。また、働き方の多様化により、60代前後の収入構成や退職金受取時期は個人差が広がっています。
本稿では、受取戦略がどのように分岐するのか、その判断軸を整理します。
1 受取戦略の検討は「税」×「収入」×「時期」
受取戦略が複雑になる理由は、主に次の3つの要素が影響するためです。
- 受取方法で税計算の仕組みが変わる
- 60代以降も働くかどうかで収入構成が変わる
- 退職金や企業年金の受取時期と重なるかどうか
特に、2026年以降の新ルールでは退職所得控除の復活が 10年 必要になるため、退職金との時間差が重要な判断軸になります。
2 一時金を選ぶ場合の分岐
一時金受取は、退職所得控除が使える点で有利です。
ただし、以下の条件によって税負担が変わります。
◆(A)退職金と受取時期が10年以上離れるケース
- 控除枠が復活し、両方で退職所得控除を使える
- 一時金受取のメリットが大きい
- 60歳以降も長期間働く人に多い
◆(B)退職金と10年未満で重なるケース
- 控除枠が復活せず、退職金側の控除枠を使い切る可能性
- DC一時金側で控除が不足し税負担増
- 退職金のある会社員にとっては要注意パターン
◆(C)退職金がそもそもない・少ないケース
- 控除枠の競合が起きにくい
- 自営業者・フリーランス・転職回数が多い人に多い
- 一時金受取が相対的に有利になる
一時金受取はシンプルですが、退職金の金額と時期を確認しないと期待したほどの節税効果が得られない点がポイントです。
3 年金受取を選ぶ場合の分岐
年金受取は「公的年金等控除」が使えます。退職所得控除を温存したいケースに向いています。
ただし、年金受取には特徴的な注意点があります。
◆(D)60代で給与収入がある場合
- 年金受取の金額が所得扱いになり総収入が増える
- 所得税・住民税に加え、国民健康保険料・介護保険料に影響
- 特に65歳前後の保険料負担には要注意
◆(E)65歳以降、年金中心の生活に移る場合
- 公的年金等控除の恩恵を得やすい
- 所得が低いほど年金受取の税負担は小さくなる
- 長寿リスクに備える意味でも安定した受取が魅力
◆(F)長期間にわたり年金受取する場合
- 運用した資産を計画的に取り崩しやすい
- 一方で年金額に応じて毎年の税・保険料が変動する
- 65歳以降の収入見通しとの調整が必要
年金受取の有利・不利は、現役収入の有無と社会保険料負担が決め手になります。
4 併用(分割受取)は「最適化」の中間的な戦略
分割受取(併用方式)は、一時金と年金の両方の特徴を組み合わせる方法です。
◆活用しやすいケース
- 部分的に退職所得控除を使いながら、残りを年金化したい
- 退職金との時期が近く一時金が不利だが、全額年金にすると保険料負担が増える
- 資産を段階的に取り崩したい
併用方式は、制度の柔軟性を最大限利用するための選択肢で、老後の収入バランスを整えやすい点が特徴です。退職金額、退職時期、年金受取額が複雑に絡む人ほど検討の価値があります。
5 働き方による受取戦略の典型パターン
制度上の分岐を踏まえると、働き方ごとに典型的な受取戦略は次のように整理できます。
◆① 60歳以降もフルタイムで働く人
- 退職金とDC受取のタイミングを10年以上空けやすい
- 一時金の節税効果が出やすい
- 65歳前後の健康保険・介護保険料も考慮する
◆② 60歳で完全退職する人
- 退職金とDCが同時期になり一時金が不利になりやすい
- 年金受取が有利になるケースが増える
- 総収入の抑制が保険料のコントロールに直結する
◆③ 自営業・フリーランス
- 退職金がない、または少ない
- 一時金受取が有利になるケースが多い
- 65歳以降の国民健康保険料との調整が重要
◆④ 企業型DCとiDeCoを併用する人
- 複数制度の受取時期が重なりやすく要整理
- 併用(分割受取)戦略のメリットが大きくなる
働き方の変化がそのまま税負担に影響するため、キャリアプランと受取プランを同時に考える視点が有効です。
結論
iDeCo・DCの受取戦略は、「一時金が得か、年金が得か」という単純な決め方では最適化できません。
重要なのは、
- 退職金の有無と受取時期
- 60代以降の働き方
- 社会保険料負担の変動
- 生涯収入と資産取り崩し方針
といった複数の要素を組み合わせて判断する点です。
2026年以降は「10年ルール」によって受取時期の管理がより重要になります。受取戦略を整理し、キャリア・収入・税制すべてを踏まえた設計を行うことで、iDeCoの価値はさらに高まります。
参考
- 厚生労働省「確定拠出年金制度」関連資料
- 国税庁「退職所得控除」「公的年金等控除」関連資料
- 日本経済新聞「DC一時金、非課税枠のルール変更」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
