DC・iDeCoの資産を「受け取りながら運用」する スイッチングと取崩しの実践戦略

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確定拠出年金(DC)やiDeCoは、60歳以降に受け取りを開始できますが、受取開始後の資産運用については意外と語られていません。制度上は一時金や年金方式を選ぶだけではなく、「受け取りながら一部を運用し続ける」という選択肢も可能です。
特に長寿化が進むなか、退職後の運用期間は20年以上に及ぶことが珍しくありません。受取開始時点で運用を止めてしまうと、資産寿命を短縮するリスクが高まります。

第4回では、受取期における運用の考え方、スイッチングの方法、取崩し設計のポイントを整理します。

1 受け取りながら運用する「三つの型」

受取期の戦略は大きく次の三つに分かれます。

  1. 一時金で一括受取→NISA・課税口座で再投資型
  2. 年金受取→DC口座内で運用しながら取り崩し型
  3. 併用方式→必要額だけ取り崩し、残りを運用型

それぞれ長所と短所があります。


2 一時金→NISA等で再投資する戦略

一時金で受け取った後、

  • 新NISA
  • 課税口座
  • 企業型DCの移換先

などで再投資する方法です。

◆メリット

  • 運用商品の選択肢が広い
  • DC特有の運用制限から自由になる
  • 新NISAを活用すれば非課税で再構築できる

◆デメリット

  • 一時金の税負担が発生する
  • 再投資の手間が必要
  • 投資判断を自分で行う負担が増える

退職所得控除が十分ある人、退職金との時期がずれる人は、一時金+NISA戦略の相性が良くなります。


3 年金受取で「口座内運用」を継続する戦略

DC・iDeCoは年金受取を選ぶと、
残高の未受取部分をそのまま運用し続けることができます。
(利用可能な商品は加入している金融機関のラインナップに依存します。)

◆メリット

  • 税制面で毎年の「公的年金等控除」が使える
  • 長寿リスクに備え、計画的な取り崩しが可能
  • 口座内運用は継続しやすく、複利効果を確保できる

◆デメリット

  • 年金額が増えるほど所得が増え、社会保険料に反映
  • 商品ラインナップが限定される
  • 必要な金額を柔軟に取り出しづらい

働き方・所得の変動が小さい人や、65歳以降に収入が少ない人はメリットが大きくなります。


4 併用方式は「生活防衛+長期運用」の中間戦略

併用方式では、

  • 生活費分を分割受給
  • 残りを運用継続

という柔軟な設計ができます。

◆メリット

  • 必要な金額だけ計画的に取り崩せる
  • 一時金と年金の税制メリットを組み合わせられる
  • 市場環境に応じて受取方法を微調整可能

◆デメリット

  • 受取設計が複雑になる
  • 年金受取部分は所得扱いになり保険料が増える可能性
  • 各制度のルールに合わせて設計が必要

併用方式は、資産額が大きい人・収入の変動がある人・市場環境の影響を受けやすい人にとって、戦略の幅を広げる方法です。


5 運用しながら取り崩す際の「スイッチング設計」

受取開始後は、資産をそのまま運用するだけではなく、リスク調整のためのスイッチングが重要になります。

◆(1)リスク資産 → 安定資産への段階的移行

受取開始時に大きく減少するリスクを避けるため、

  • 世界株式 → 債券
  • バランス型 → 元本確保型
    など、段階的に移行する手法があります。

◆(2)必要額を“安全資産”で確保する

1〜3年分の生活費相当を安全資産(定期・短期債)で確保し、
残りは長期運用に回す
という「生活防衛バッファ」の考え方も有効です。

◆(3)市場下落時の“逆スイッチング”は避ける

下落局面で安全資産→株式へ大きく振り返ると、老後資産の安定性が損なわれます。
受取期は「攻めより守り」が基本です。


6 取崩し方の三つの基準

取崩し設計には一般的に三つの基準があります。

◆① 金額基準

  • 年金方式
  • 分割受取
  • 定額で取り崩す方式

リスクを抑えつつ生活費を確保しやすい方法です。

◆② 率(パーセンテージ)基準

資産の3〜4%を毎年取り崩す方式(4%ルール等)。
長期的に資産寿命を延ばしやすい手法ですが、年によって受取額が変動します。

◆③ 年齢基準

年齢が上がるほど取り崩し率を上げる方式。
長寿リスクに対応しやすい点が特徴です。

DC・iDeCoは制度上、完全に自由な取崩しはできないため、併用しながら制度内と制度外を調整するのが現実的な戦略になります。


7 受取期の最大リスクは「早すぎる守り」と「遅すぎる攻め」

受取と運用の設計で最も避けたいのは次の二つです。

◆① 一括で安全資産に切り替え、運用を止めてしまう

長期のインフレ耐性を失い、資産寿命が短くなります。

◆② 受取開始後も高リスク資産を保有し続ける

市場下落時に大きな減少を受け、生活設計が不安定になります。

受取直前5年と受取開始後5年の10年間を「リタイアメント・リスクの谷」と呼ぶほど、この時期は慎重な調整が必要です。


結論

DC・iDeCoの受取期は、単に一時金か年金かを選ぶだけではなく、

  • 受け取りつつ運用を続ける
  • 必要額だけ段階的に取り崩す
  • 市場環境に応じてスイッチングを行う

といった多層的な戦略が必要です。

資産寿命を延ばすには、
「守り」と「運用」のバランスを取りつつ、受取時期・社会保険料・税制を同時に考える
ことが欠かせません。受取期こそ、運用設計の巧拙が最も大きく結果に現れる段階といえます。


参考

  • 厚生労働省「確定拠出年金制度」資料
  • 金融庁「長期・積立・分散投資」関連資料
  • 国税庁「公的年金等控除」「退職所得控除」
  • iDeCo公式サイト(制度説明資料)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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