DC・iDeCoの受取と社会保険料 60代・70代の負担をどう見極めるか

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

確定拠出年金(DC)やiDeCoの受取方法を検討する際、税負担に目が向きがちですが、実際には社会保険料の影響が極めて大きくなります。特に60歳以降は、国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療制度の保険料が所得に応じて変動するため、受取方法次第で負担額が数万円から十数万円単位で変わることもあります。

第3回では、「一時金」「年金」「併用」が社会保険料に与える影響を整理し、60〜75歳までの時期別に考えるべきポイントを解説します。

1 社会保険料は“所得ベース”で増減する

社会保険料の多くは税額と同じく所得に応じて計算されます。特に影響が大きいのは次の3つです。

  1. 国民健康保険料(〜74歳)
  2. 介護保険料(65歳〜)
  3. 後期高齢者医療制度の保険料(75歳〜)

DC・iDeCoを年金で受け取ると、その年金額が「雑所得」として所得に加算されます。一方で、一時金で受け取る場合は「退職所得」として部分的に非課税となり、所得への影響は比較的小さくなります。


2 60〜64歳:国民健康保険料への影響が最大

60歳で会社を退職した場合、多くの人が一時的に国民健康保険に加入します。この時期は 現役並みの所得区分になりやすく、保険料が大きく変動しやすい 点が特徴です。

◆年金受取を選んだ場合

  • 年金額が「雑所得」として保険料計算に反映
  • 所得が増えるほど国民健康保険料が上昇
  • 特に「所得割」(自治体ごとの料率)が大きく影響する

◆一時金受取を選んだ場合

  • 退職所得は所得計算の対象になりにくい
  • 一時金の受取額が大きくても保険料はほぼ増えない
  • 保険料負担を抑えたい場合に優位

60歳で退職金+DC一時金を受け取るケースでは、税負担は増えても社会保険料を抑えられるという逆転現象がしばしば起きます。


3 65〜74歳:介護保険料と住民税の影響が拡大

65歳になると介護保険料が発生します。介護保険料は所得と連動するため、ここでも受取方法が負担を左右します。

◆年金受取の場合

  • 年金額が介護保険料の算定基準に直接影響
  • 所得区分(第1号〜第16号)で負担額が大きく変わる
  • 給付金額の多い自治体ほど保険料が高い

◆一時金受取の場合

  • 一時金は所得に反映しにくく、介護保険料にほぼ影響なし
  • 退職金と合わせて受け取る年齢を調整しやすい

この時期は「公的年金等控除」が大きい一方、年金受取額が多いほど各種保険料が増えやすいため、収入と保険料のバランス調整が重要です。


4 75歳〜:後期高齢者医療制度で再度負担構造が変わる

75歳になると後期高齢者医療制度に移行します。
保険料の計算式は国民健康保険と大きく異なりますが、根本はやはり「所得に連動」する仕組みです。

◆年金受取の影響

  • 年金額が増えるほど医療保険料が上昇
  • 基礎控除や公的年金等控除の影響が大きい
  • 所得段階が上がると負担増(均等割+所得割)

◆一時金受取の影響

  • 75歳時点で一時金を受け取っても保険料にほぼ影響しない
  • 退職所得扱いのため、後期高齢者保険料に反映されにくい

特に、75歳直前に分割受給して雑所得を増やすと、75歳以降の医療・介護保険料が一気に上昇するケースに注意が必要です。


5 一時金 vs 年金「保険料」という視点での整理

税負担では年金受取が有利にみえる局面がありますが、社会保険料という視点では整理が異なります。

◆一時金受取が有利になりやすい場面

  • 60〜64歳の国民健康保険加入期間
  • 退職金と時期が重なる場合
  • 退職所得控除の枠が十分ある場合
  • 保険料負担を年齢ごとに抑えたい場合

◆年金受取が有利になりやすい場面

  • 収入が減少し保険料が低めで安定する65歳以降
  • 分割受給で生活費を補填したい場合
  • 長寿リスクに備えて計画的に取り崩したい場合

年金受取は安定性に優れますが、60代前半〜65歳前後の保険料上昇を踏まえると、必ずしも税と保険料の両方で得になるとは限りません。


6 支出が最も増えやすい“60〜70歳の谷間”をどう乗り切るか

受取と社会保険料の関係を整理すると、最も注意が必要なのは次の期間です。

  • 60〜64歳:国民健康保険料が上がりやすい時期
  • 65〜69歳:介護保険料が新たに発生する時期

この期間は、仕事を続けるかどうかや退職金の支給時期によって負担額が大きく変わります。

特に、
・一時金の受取タイミング
・再雇用の有無
・企業年金の受取開始時期

によって負担が大幅に変わるため、受取戦略の中で最も慎重な設計が必要になる部分です。


結論

iDeCo・DCの受取方法は、税負担だけではなく、社会保険料の増減に大きな影響を与えます。一時金と年金の選択は、

  • 年齢
  • 退職金の受取時期
  • 国民健康保険・介護保険・後期高齢者医療制度の切替時期
  • 所得の見通し

などを踏まえて判断する必要があります。

社会保険料の負担は長期的にみると税額以上の影響を持つこともあるため、60代以降の働き方や収入計画と一体で受取戦略を考えることが重要です。


参考

  • 厚生労働省「国民健康保険制度」関連資料
  • 厚生労働省「介護保険制度」資料
  • 厚生労働省「後期高齢者医療制度」資料
  • 国税庁「公的年金等控除」「退職所得控除」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました