生成AIの進化は、もはや「導入するかどうか」ではなく、「どう使いこなすか」という段階に入りました。
世界のCEO調査では、経済の先行きには慎重でも、自社の未来には楽観的な回答が増えています。その背景には、自社の変革をAIが後押しするという確信があります。
一方で、AIは新しいリスクも伴います。データ保護、誤情報、セキュリティ、そして「責任の所在」の問題です。
AIを試さなければ前に進めない。しかし、試すほどリスクも増える。
この相反する課題をどう乗り越えるのか――これこそが、AI時代の経営トップに求められる重要テーマです。
本稿では、世界的な調査データと大手企業の事例をもとに、「AIを試す企業がなぜ強いのか」「どんな能力が人間側に残るのか」「AI時代のガバナンスはどう変わるのか」を整理します。
1 世界は不確実でも、企業は“自社の未来”に楽観的
KPMGのCEO調査によると、世界経済の見通しに「自信がある」と答えたトップは前年より減少しました。
関税政策や地政学リスクが重しとなり、不透明感が高まっているためです。
しかし興味深いのは、
「自社の未来」については79%のCEOが楽観的
という点です。
特にエネルギーやITといった構造変化の大きい業種は前向きな姿勢が際立っています。
このギャップが示すのは、「外的環境は読めないが、自社の改革次第で未来は変えられる」という現実です。そして、その改革の中心にAIが位置付けられています。
2 成功企業の共通点は「AIを自由に試せる環境」
不透明な時代に成果を出す企業に共通しているのは、AIを早期に導入し、社員に積極的に“試させる”姿勢です。
ここで重要なのは、
完璧なツールを待たない
使いこなしながら改善する文化を持つ
という点です。
KPMGの調査では、
CEOの84%が「実験する姿勢こそが成功の鍵」と回答
しており、AI導入の初期段階では“失敗の許容”が競争力の源泉になっています。
試行錯誤から学び、改善し、その結果ツールも業務も洗練されていく。
AIが業務に深く入り込むほど、「実験文化」が企業の差を決めていく時代になったといえます。
3 企業固有データを活用できるかが勝負を決める
対話型AIは世界中の公開データの一部を学習したモデルです。
そのため、企業が持つ貴重な“内部データ”までは当然ながら把握していません。
強い企業ほど、
- 社内データをAIに安全に取り込み
- 組織固有のナレッジを反映させ
- 自社専用のAIとして運用する
というプロセスを構築しています。
つまり、これからのAI活用は
「データを持つ企業が勝つ」
から
「データを使える企業が勝つ」
へと進化していきます。
AIは持っているデータの質で性能が大きく変わるため、
「データの安全な取り込み」と「AIガバナンス」は避けて通れません。
4 AI普及で生まれる“新しい仕事”:人間は「責任を負う」
マイクロソフトは、ビジネスツールに広範囲にAIを組み込み始めています。
情報収集・要約・文書作成・意思決定支援など、従来のホワイトカラー業務の多くがAIに置き換わりつつあります。
かつて存在したソフトウエアの「テスター」が消えたように、
AIが業務を担うことで消える仕事は増えます。
その一方で、AIが得意ではない領域――
AIが行った作業の正しさを確認し、結果に責任を負う人材
の重要性が急速に高まります。
AIが「自律的に作業する時代」になるほど、
人間は「判断と責任」という上位レイヤーに移動していきます。
企業に求められるのは、
- AIの成果物を評価できる
- どのAIが何をしたか説明できる
- 間違いを修正できる
- データの扱いを理解している
といった能力を育てる教育体制です。
これは単なるITスキルではなく、
“AIに責任を持つ”ための新しい専門性
であり、これからの企業競争力の核心になります。
5 AIがSaaSビジネスの構造を変える
これまで企業は、タスクごとに異なるアプリを使い分けていました。
営業管理、ドキュメント作成、プロジェクト管理、分析……。
しかし、今後は
「1つのエージェントAIに指示すれば、すべてのアプリが連動して動く世界」
が現実味を帯びています。
アプリ間の“壁”が消えることで、SaaSビジネスの構造そのものが変わる可能性があります。
これは、IT投資や業務設計の常識を大きく塗り替える動きであり、企業はその前提で戦略を描く必要があります。
6 AI時代のセキュリティは「防御側もAI活用」が前提
AIは便利な反面、
- 不正利用
- 誤情報の出力
- セキュリティリスク
など“影”の部分も抱えています。
マイクロソフトは「セキュア フューチャー イニシアチブ」として、
開発段階からセキュリティを組み込む方針を徹底しています。
攻撃者がAIを使う時代には、守る側もAIで対抗する発想が欠かせません。
AIを導入する企業は、単にツールを使うだけでなく
「セキュリティを前提にしたAIガバナンス」
を組織に組み込む必要があります。
結論
AIは企業に大きな可能性をもたらす一方、誤用・誤情報・セキュリティといった新しい課題も作り出します。だからこそ、AI時代の経営に求められるのは次の2点です。
①「試す文化」を持つ
完璧さを求めて導入を遅らせる企業ほど、AI活用の競争から脱落します。
実験しながら改善する企業が、圧倒的に強くなる時代です。
②「AIに責任を負う人材」を育てる
AIが自律的に動くほど、人間の役割は「判断」「監督」「責任」に移ります。
これを担える人材育成とガバナンスこそが、企業の未来を左右します。
ビジネスのスピードは今後さらに上がります。
変化が早い時代だからこそ、経営者はSNSや世論に振り回されず、
一貫した戦略を持ち続けることが不可欠です。
AIは脅威ではなく、“正しく使う企業が成長するための加速装置”です。
試し、改善し、責任を持って活用する。
その積み重ねが、これからの日本企業に最も求められる経営力だと考えています。
参考
・日本経済新聞「AI試す姿勢 成功のカギ」(2025年12月3日 朝刊)
・日本経済新聞「AIの『責任負う』人材育成」(2025年12月3日 朝刊)
※内容を参考にしつつ、文章はオリジナルで再構成しています。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

