AIを活用した税務調査の話題に触れると、「調査が厳しくなった」「逃げ場がなくなった」という印象を持つ方も少なくありません。
一方で、「恣意的な調査が減り、公平になったのではないか」という見方もあります。
AIの導入は、税務調査の性格をどのように変えたのでしょうか。
第7回では、「厳格化」と「公平性」という二つの視点から、AI時代の税務調査を整理していきます。
昔の税務調査はどうだったのか
AIが本格的に使われる以前の税務調査は、調査官の経験や勘が大きな役割を果たしていました。
業界慣行や過去の事例、地域性などを踏まえつつ、「気になる法人」に調査が入るという側面もありました。
この方法は、熟練した調査官の知見を活かせる一方で、
・調査対象の選定理由が見えにくい
・調査が偏る可能性がある
といった課題も抱えていました。
AI導入で変わった「入口」の部分
AIが導入されたことで、大きく変わったのは調査の「入口」です。
全法人のデータを横断的に分析し、一定の基準で調査必要度を判定することで、対象選定の透明性が高まりました。
これは、「誰が見ても同じデータなら同じ評価になる」方向への変化と言えます。
少なくとも、調査の出発点が個人の感覚に依存しにくくなった点は、大きな変化です。
「厳しくなった」と感じられる理由
それでも、多くの人が「厳しくなった」と感じるのには理由があります。
AI分析により、
・過去との微妙なズレ
・業界平均との差
・数字の不整合
が以前よりも可視化されるようになったためです。
以前であれば見逃されていたかもしれない違和感が、データとして浮かび上がることで、調査につながるケースが増えています。
この点だけを見ると、確かに調査は厳格になったと言えるでしょう。
真面目な納税者にとっての変化
一方で、適正に申告している納税者にとっては、AI導入は必ずしも不利な変化ではありません。
数字の整合性が取れており、説明が可能な申告であれば、リスクは相対的に低くなります。
AIは「目立つ存在」や「規模の大きさ」ではなく、「データ上の違和感」を基準に判断します。
その意味では、これまで以上に公平な調査環境が整いつつあるとも言えます。
人の判断が排除されたわけではない
重要なのは、AIがすべてを決めているわけではないという点です。
最終的な調査判断や、不正かどうかの認定は、今も人が行っています。
AIはあくまで補助的なツールであり、
・事業の実態
・説明内容
・対応姿勢
といった要素は、従来どおり重視されています。
結論
AI時代の税務調査は、「一律に厳しくなった」と単純に言えるものではありません。
データに基づく選定が進んだことで、調査の精度は高まり、その結果として厳しく感じられる場面が増えた側面はあります。
しかし同時に、調査の公平性や合理性も高まっています。
AI時代の税務調査とは、
「運や印象で左右されにくくなった調査」
だと言えるでしょう。
次回はいよいよ最終回として、AI時代の税務調査を踏まえ、これからの納税との向き合い方を整理します。
参考
・税のしるべ「AIと調査官の知見を組み合わせ精度の高い調査を実施」(2025年12月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
