AI前提の業務再設計へ 「AIPR(AIプロセス・リエンジニアリング)」が組織をどう変えるのか

効率化
青 幾何学 美ウジネス ブログアイキャッチ note 記事見出し画像 - 1

生成AIの普及は、企業の競争原理そのものを変えつつあります。これまでインターネットやクラウドが社会を大きく変えてきましたが、生成AIはその比ではありません。AIが文章を作成し、要件を理解し、アウトプットを生み出すスピードと精度は、多くのホワイトワーカーの生産性モデルを根本から揺さぶっています。

近年、NTTデータグループが提唱する「AIPR(AI Process Re-engineering)」は、AIを前提とした業務再設計の潮流を象徴する概念です。本稿では、AI前提の業務改革とは何か、どこから手を付けるべきか、そして組織のリーダーに求められる視点は何かを整理します。

1 AIは「従来技術の延長」ではない

AIは、単なる新技術の一つではありません。

  • 質問すると論文レベルの回答が数秒で返ってくる
  • 分析・整理・要約・計画作成を一括で実行する
  • 複雑な思考過程まで自動化できる

こうした体験は、既に多くの人が実感している通りです。
AIは、人間の得意とする「思考・判断・文章化」の領域にも深く踏み込みつつあります。これが、これまでの技術と決定的に違うところです。

これまでのIT改革は「人間の作業を効率化する」ものでしたが、生成AIは
「人間の思考プロセスそのものを代替可能にする」
点で桁違いのインパクトがあります。


2 業務は「インプットとアウトプット」で分解できる

AIを前提とした業務改革を考える際、鍵となるのは次の視点です。

業務には、インプットとアウトプットしか存在しない。
途中の思考・加工こそが、AIが最も強みを発揮する領域です。

例を挙げると、

  • インプット:会議資料、要望事項、基礎データ
  • アウトプット:報告書、提案資料、契約書案、分析結果

従来は、これらの間を人間が埋めてきました。
しかしAIによるドラフト作成、議事録整理、論点抽出、比較表の作成などはすでに実用段階にあり、ホワイトカラー業務の多くがAIで代替可能になりつつあります。


3 AIを前提に業務を再設計する「AIPR」

NTTデータが提唱するAIPR(AI Process Re-engineering)は、従来のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)をAI時代に再定義したものです。

AIPRで見直すべきポイント

  1. どのアウトプットをAIに任せられるか
  2. AIが機能するために、どのインプット形式が最適か
  3. 業務フローをAI主体にどう並べ替えるか
  4. 人間が担うべき判断・責任範囲はどこか

従来の業務は「担当者のスキル」を前提に組み立てられていました。
AIPRでは、「AIで自動化できるか」を前提に業務を再構築していきます。

AIが文章化・要約・分析・構造化を担い、人間は最終判断と責任を負う。
これがAI時代の標準的な業務モデルになりつつあります。


4 AIを“使うだけ”では何も変わらない

組織でありがちな失敗が「AIを使ってみよう」と指示をするだけで終わるケースです。

AI活用は、新しいツールの導入とは本質が異なります。
必要なのは
「業務プロセスそのものをAIに合わせて作り直す」
という発想です。

そのためにリーダーに求められるもの

  • 業務全体を俯瞰して、どこがAIで代替できるかを判断する力
  • 業務プロセスを分解し、AI前提に組み替える構想力
  • 段階的に実装し、プロセスの入れ替えを遂行する意思決定
  • 現場を巻き込みながら、運用できる形に落とし込むコミュニケーション能力

AI導入は、IT部門だけで完結するプロジェクトではありません。
プロセス責任者・リーダーの考え方が成否の9割を決めます。


5 AIは「買って終わり」ではない

生成AIはパッケージソフトのように、そのまま導入して使えるものではありません。

必要なのは

  • 社内データの整理・統合
  • データ形式の標準化
  • 権限・アクセス管理
  • 実際の業務フローへの組み込み

AIはデータがなければ機能しません。
そして、現場のプロセスが整備されていなければ活かせません。
つまり、テクノロジーだけではAI活用は完成しないということです。

NTTデータが強調しているように、AI活用には
「産業の構造・業務内容を深く理解した人材」
が不可欠です。

高度なAIモデルがあっても、業務理解がなければ現場に定着しません。


6 「AI×専門人材」の確保が次の競争軸

世界のAIサービス市場では、

  • 業務理解
  • データ統合力
  • AIモデルの運用
  • 組織変革支援

を一体で提供できる企業が優位に立とうとしています。

NTTデータがシリコンバレーに少数精鋭の新会社を設立するのも、
高度なユースケースを自社で創出するため
です。

AIモデルを理解しつつ、業務も深く理解できる人材は世界的に不足しています。
逆に言えば、この層を獲得できた企業がAI市場で競争優位に立つ時代です。


7 日本企業はどこからAIPRを始めるべきか

ここからは、記事の内容を踏まえつつ日本企業向けに補足します。

◆ステップ1:業務棚卸し

  • どの業務がAIで代替可能か
  • どの業務は人間が判断すべきか

まず業務をインプット・アウトプットで分類します。

◆ステップ2:AI実装の最小単位を見つける

  • 報告書ドラフト
  • 議事録
  • 要約・分析資料
  • FAQ対応
  • 契約書案作成

「AIに任せればすぐに効果が出る作業」を選ぶことが重要です。

◆ステップ3:データ整備

  • フォーマット統一
  • 文書管理ルールの整理
  • 共有ストレージの階層化
  • AIとの連携基盤の整備

ここが不十分だとAIは機能しません。

◆ステップ4:業務プロセスの入れ替え

  • AIが担当
  • 人間は最終レビュー
  • 再びAIで改善提案

このサイクルを回し、AI前提の業務へ移行します。


結論

AIは、業務の一部を支援するツールではありません。
業務の中心を担い、人間の判断を支える“相棒”として機能する時代に入りつつあります。

AIPR(AIプロセス・リエンジニアリング)は、

  • 業務の分解
  • AIによる再構築
  • 人間の判断領域の再定義

を通じ、企業の生産性と競争力を抜本的に引き上げる可能性があります。

AIを前提に業務を再設計できるかどうかは、
リーダーの認識と、実行の意思
にかかっています。

今後数年で、AIを中心に据えた企業と、従来型のプロセスにしがみつく企業の間には、決定的な差が広がっていくはずです。


参考

・日本経済新聞「AI前提に業務を再設計」(2025年12月4日)
・AI活用・業務改革に関する各種資料・公開データより再構成


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました