確定申告は、多くの個人事業主やフリーランスにとって毎年の大きな負担です。領収書の整理、経費の仕分け、数字の入力作業など、時間と労力を取られる作業が多く、会計が苦手な人ほどストレスを感じる場面が少なくありません。
こうした状況を背景に、最近ではAI技術を活用した会計ツールが急速に普及しています。とりわけ、マネーフォワードが新しく開始した「AIエージェントによる確定申告支援」は、従来の自動化機能を一段階押し上げる存在として注目されています。
本記事では、AIエージェントが確定申告のプロセスにどのような変化をもたらすのか、一般の方向けにわかりやすく解説します。
1.AIエージェントは何をしてくれるのか
今回登場したAIエージェントは、「自律的に作業するAI」をコンセプトにした仕組みです。領収書を撮影してアップロードするだけで、AIが内容を読み取り、費目を判別し、自動で仕分けまで行います。
具体的には、領収書の記載内容をもとに、
- 会議費
- 通信費
- 交通費
- 消耗品費
- 旅費
などに分類し、費用一覧としてまとまったデータを作成します。
これまでのAIやOCRは「読み取る」「推測する」といった補助的な役割が中心でしたが、今回のAIエージェントは「自動で判断し、処理を進める」という点が大きな進化です。
作業時間は数秒ともいわれ、手入力と比べると「10分の1程度」に短縮されるという発表もあります。
2.仕分け自動化がもたらすメリット
(1)確定申告のストレスが大幅に減る
確定申告を「最後の3月にまとめてやる」人が多い理由のひとつが、仕分け作業の負担です。1年分の領収書を見返すのは大変で、どの経費に分類すべきか迷うこともあります。
AIが仕分けを代行することで負担が減り、心理的ハードルも下がります。
「毎年ギリギリにならないようにしたいのにできない」という悩みも軽減されます。
(2)毎日の経理が習慣化しやすくなる
レシートを撮影するだけで処理できるので、普段からこまめに記録する習慣がつきやすくなります。
「経理を溜めない」ことは確定申告の最短ルートであり、AIがその後押しをしてくれます。
(3)ミスが減りやすくなる
手入力には入力漏れや数字違いがつきものです。AIが読み取り・分類を行えば、基本的な誤入力は減ります。確認作業だけに集中できるため、全体の精度が上がる効果が期待できます。
3.AIはどこまで確定申告を代替できるのか
AIの自動化が進む一方で、すべての判断をAIが行えるわけではありません。
(1)グレーゾーンの経費はまだAIが苦手
たとえば
- 会議費なのか接待交際費なのか
- 修繕費と資本的支出のどちらか
- 家事按分の割合はどれくらいか
といった判断は、状況によって変わるためAIが決めきれないことがあります。
(2)税制改正への対応
毎年のように税制改正があります。AIが自動的にすべての改正を読み込み、正しく反映する仕組みが完全に整うには、まだ時間がかかります。
(3)税務調査リスクをゼロにはできない
AIが仕分けしたとしても、分類が誤っていれば税務調査で指摘を受ける可能性はあります。特にグレーゾーンが多い業種では、最終確認が欠かせません。
4.AIエージェントを正しく使うためのポイント
(1)領収書の保存は引き続き必要
AIが読み取っても、領収書そのものの保存義務はなくなりません。電子帳簿保存法に対応した形で保存することが必要です。
(2)自動分類の内容は確認する
便利な反面、自動仕分けでも誤りは起こりえます。「AIだから完璧」とは考えず、月に一度は分類内容をチェックするのが安心です。
(3)事業の特徴をAIに覚えさせる
よく使う費目や支払い先があれば、訂正しながらAIに学習させることで、より精度が上がります。
5.確定申告の未来はどう変わるか
AIエージェントの登場により、「確定申告は専門知識がなければ難しい」というイメージが大きく変わりつつあります。
今後数年で進むと予想される変化には、次のようなものがあります。
(1)記帳作業の大半が自動化
領収書撮影→自動分類→自動入力という流れが標準化すると、入力のためにパソコンの前に座る時間が大幅に減ります。
(2)会計データがリアルタイム化
月次や週次の数字がほぼリアルタイムで確認できるようになることで、スモールビジネスの経営判断がしやすくなります。
(3)確定申告が「年に一度の負担」ではなくなる
日々の経理が整うため、確定申告時に慌てる必要が少なくなります。「3月だけ大変」という構造が改善される可能性があります。
結論
AIエージェントは、確定申告の中でも負担の大きい「仕分け作業」を大幅に効率化し、会計作業のハードルを下げる存在です。会計が苦手な人でも利用しやすい設計で、個人事業主やフリーランスの大きな味方になると期待されています。
一方で、税制の判断やグレーゾーンの処理はまだ人の確認が必要です。AIの力を取り入れつつ、自分でチェックする習慣を持つことで、確定申告全体の負担を大きく減らすことができます。
AIを前提にした確定申告のスタイルが広がることで、経理作業はこれまで以上に身近で、効率的なものになっていくでしょう。
参考
・日本経済新聞「AIエージェントで確定申告支援」(2025年12月3日)
・国税庁 各種公開資料
・経産省・金融庁のAI関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

