AIと税務調査

効率化
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税務調査というと、「突然来るもの」「運や偶然で選ばれるもの」という印象を持つ方も多いかもしれません。
しかし、近年の税務行政では、そうしたイメージは大きく変わりつつあります。

国税庁は、AIやデータ分析と調査官の知見を組み合わせることで、調査が必要と考えられる法人を事前に絞り込み、より精度の高い税務調査を行っています。
2025年12月に公表された資料からは、その仕組みと成果が具体的な数字として示されています。

この記事では、AIを活用した税務調査の実態と、それが企業や事業者にとって何を意味するのかを整理していきます。

税務調査は「AIで選ばれる」時代へ

国税庁は、申告書や決算書、法定調書、過去の調査結果など、長年にわたって蓄積してきた膨大なデータを活用しています。
これらのデータを統計分析や機械学習によって解析し、「調査の必要度が高い法人」を予測するモデルを構築しています。

ここで使われているのは、文章を作る生成AIではなく、数値データをもとにリスクを判定する予測モデルです。
売上や原価、経費の動きなどから、過去の不正事例と似たパターンがないかを判定し、調査対象の候補を抽出します。

令和6事務年度では、税務署が所管する約339万法人のうち、約49万法人が「調査必要度が高い可能性がある」としてAIにより抽出されました。

最終判断は「人」が行う

AIが抽出した法人は、そのまま調査対象になるわけではありません。
申告内容や各種資料情報を人の目で精査したうえで、調査官が最終的に調査実施の要否を判断します。

その結果、実際に調査対象として決定されたのは約5万3,000件でした。
AIはあくまで「ふるい分け」の役割を担い、最終的な判断や調査は人が行うという仕組みです。

数字が示す「調査精度の差」

AIを活用した調査選定の効果は、調査結果の数字にも表れています。
調査必要度が高いと判定された法人と、そうでない法人を比較すると、追徴税額や不正所得金額に明確な差がありました。

調査1件あたりの法人税・消費税の追徴税額は、
調査必要度が高いと判定された法人が約541万円、
判定されなかった法人は約234万円となり、2倍以上の差があります。

法人税の不正所得金額についても、
高いと判定された法人は約2,875万円、
判定されなかった法人は約1,368万円と、同様に大きな差が生じています。

これは、AIと人の知見を組み合わせることで、より実態に近い調査対象を選定できていることを示しています。

すべての法人にとって無関係ではない理由

「AIで判定されなければ安心」と考えるのは早計です。
AIで高リスクと判定されなかった法人であっても、資料情報の分析結果などを踏まえて調査が行われるケースはあります。

重要なのは、税務調査が勘や偶然ではなく、データに基づいて行われる時代になっているという点です。
売上や経費の不自然な変動、業界平均との差異、取引内容の整合性などは、以前よりも可視化されやすくなっています。


結論

AIの導入によって、税務調査は「数をこなす調査」から「的確に当てにいく調査」へと変化しています。
これは国税庁にとって効率化であると同時に、納税者側にとっても重要な意味を持ちます。

形式的に帳簿を整えているだけでは足りず、取引の実態や数字の整合性がこれまで以上に問われる時代です。
一方で、適正な申告と説明ができていれば、過度に不安を感じる必要もありません。

AI時代の税務調査とは、透明性と合理性がより重視される調査であると言えるでしょう。


参考

・税のしるべ「AIと調査官の知見を組み合わせ精度の高い調査を実施」(2025年12月8日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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