AIと歩む認知症のある暮らし 京都・京丹後市が示す「寄り添うテクノロジー」の可能性

人生100年時代
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高齢化が進む日本では、認知症への向き合い方が地域政策や家族の暮らしに大きな影響を及ぼしています。京都府京丹後市は100歳以上の人口割合が全国平均の3倍という長寿地域であり、認知症と共に生きる社会づくりを先駆的に進める自治体として注目されています。
同市が2024年に導入した対話型AI「旅のせんぱいA.I.」は、認知症の家族介護を支える新しいツールとして注目を集めています。本稿では、この取り組みが地域と家族にもたらす意味や、AIが認知症支援に果たす役割について考察します。

認知症と生きる地域が選んだ「AIの活用」という道

京丹後市は高齢化率38%という状況の中で、認知症を「特別な人の問題」ではなく、地域全体の課題として共有する方針を掲げています。2022年には「認知症とともに生きるまちづくり条例」を制定し、市民・医療・介護・行政が連携する取り組みを進めてきました。

その中核のひとつが、AIチャットボット「旅のせんぱいA.I.」です。「認知症とひと足早く付き合い始めた先輩」というキャラクターが、相談者の気持ちを受けとめ、優しい語り口で助言を返す仕組みになっています。
相談件数は月平均3300件。時間や場所を問わず利用でき、介護者が負担を抱えやすい夜間や一人の時間でも頼ることができる点が大きな特徴です。

AIが提供するのは“正解”ではなく“寄り添い”

対話内容を見ると、このAIが重視しているのは「正しい行動の指示」ではなく「気持ちの整理を助ける共感的な伴走」です。

例えば「親が何度も同じ話をしてイライラしてしまう」という相談には、
・その気持ちを肯定する
・深呼吸という具体的な行動を提案する
・自分を責めないよう促す
といった、心理的負担を軽減する応答が返ります。

認知症介護では、正論よりも「まず心を整えること」が重要です。わかっているのにできない葛藤、介護者の罪悪感、怒りと疲労の同居。こうした複雑な感情に対して、すぐそばに寄り添う存在があるだけで支えになります。
その点で、AIが日常の“ちょっとした相談”の受け皿になる意義は大きいといえます。

現場の声:AIだからこそ生まれる安心感

デイサービス職員や介護家族の声を見ると、AIに対して「優しい」「責めない」「落ち着く」という印象が語られています。
AIは感情的に反応しません。
相手の状態に左右されず、穏やかで、いつでも一定の距離感で寄り添うことができます。

介護では、同じ悩みを何度も繰り返し吐き出すことが必要ですが、相手が人だと遠慮も働きます。AIはその遠慮を減らし、感情の“排水口”として機能する点が評価されています。

さらにタブレットやスマートフォンの音声入力を活用すれば、文字入力が苦手な高齢者でも利用でき、家族だけでなく本人にとっても新しいコミュニケーション手段となり得ます。

認知症支援で広がる「AIの役割」

京丹後市の事例は、AIが認知症支援の中心ではなく「伴走者」として存在する未来を示しています。

AIが担える役割には以下のようなものがあります。
・気持ちを受けとめる“対話の相手”
・相談窓口や地域資源につなぐ“案内役”
・介護者が限界に達する前の“早期気づき”
・24時間365日の“孤立防止”

行政がこれを公式サービスとして提供する意義は非常に大きく、自治体が地域ケアの基盤にAIを組み込む新しいモデルとして注目されます。

今後は、医療・介護連携、本人の意思決定支援、ケアプラン作成補助など、AIの役割が徐々に広がる可能性があります。ただしAIが人の代替になるのではなく、専門職と家族の負荷を適切に軽くする“補助輪”として整備していくことが重要です。

結論

京丹後市の取り組みは、認知症を地域全体で支えるためのAI活用モデルを先取りするものです。AIができることは限定的ですが、誰かが気兼ねなく相談できる場があるだけで、介護の負担は大きく変わります。
認知症高齢者が増えるこれからの時代に、寄り添い型AIの存在は地域包括ケアを支える新たな土台となっていくと考えられます。
認知症と共に生きる社会をどう築くか――京丹後市はその問いへの実践的なヒントを提示しています。

参考

・日本経済新聞「AIと歩く認知症世界」(2025年12月11日)
・京丹後市「認知症とともに生きるまちづくり条例」関連資料
・認知症支援に関する自治体施策の公開情報


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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