人工知能(AI)関連投資を軸に、国内外の景気は回復基調を維持しているといわれています。
日本経済新聞社と日本経済研究センターが開催した新春景気討論会では、こうした見通しに一定の共通認識が示される一方、日本経済が抱える構造的な課題や、衆院選を控えた政策論争への懸念も浮き彫りになりました。
本稿では、討論会での発言を手がかりに、「AI成長の実像」「為替・金利環境の転換」「消費税減税と賃金政策」「貯蓄から投資へ」という4つの視点から、今後の日本経済の焦点を整理します。
AI主導の成長は「過渡期」にある
討論会では、AIが引き続き成長のけん引役になるとの見方が共有されました。
特にデータセンター投資の拡大や、半導体・工作機械といった関連産業への波及効果は、足元の景気回復を支えています。
一方で、AI成長はまだ「完成形」ではありません。
クラウドを前提とした生成AIに加え、端末側で処理を行うエッジAIの普及が今後の焦点となります。これは、通信遅延や電力消費の制約を克服し、製造現場やロボティクス、医療、インフラ管理など、よりフィジカルな分野へAIを浸透させる基盤となります。
日本企業にとって重要なのは、AIそのものを開発する競争ではなく、自社の強みと結びつけて活用することです。
ロボティクスや精密機械、現場改善といった分野で蓄積してきたノウハウとAIを融合できるかどうかが、成長の持続性を左右します。
為替と金利――「円安の功罪」が問われる局面へ
円安と長期金利の上昇も、今後の経済を考えるうえで避けて通れません。
短期的には円安が輸出企業の収益を押し上げてきましたが、討論会では中長期的な視点での懸念が相次ぎました。
通貨安が常態化すれば、海外投資家にとって日本への投資魅力は低下します。また、日本企業自身も、海外の成長市場に投資する力を失いかねません。
成長力の源泉となる設備投資や人材投資を考えると、「緩やかな円高」や為替の安定が望ましいという見方は説得力があります。
一方、長期金利については、名目GDP成長率を踏まえれば上昇余地は十分にあるとの指摘もありました。
金利のある世界に戻るなかで、企業・個人がどのように資金を配分するかが、経済の質を左右する段階に入っています。
消費税減税と最低賃金――論点はそこだけか
衆院選を前に、消費税減税が主要な争点として浮上しています。
食品の税率引き下げや期間限定の減税は、短期的な家計支援策として一定の理解を得やすい政策です。
しかし、討論会では「一度下げた税率を元に戻せるのか」「減税が恒久的な成長につながるのか」という疑問が繰り返し提示されました。
財源を必要とする防衛、危機管理投資、社会保障をどう支えるのかという議論を避けたまま、減税だけを掲げることには限界があります。
注目すべきは、最低賃金の引き上げを成長戦略の中核に据える視点です。
日本の最低賃金水準は国際的に低く、消費税率だけを見て「日本は低負担」と評価するのは片面的です。
実質賃金を持続的に引き上げるには、生産性向上と賃金政策を一体で考える必要があります。
「貯蓄から投資へ」と成長マインドの転換
討論会で示されたキーワードの一つが、「金利のある世界」における資金の動きです。
預貯金に滞留してきた個人資産が、投資を通じて成長分野に向かうかどうかは、日本経済の将来を左右します。
ただし、制度や税制を整えるだけでは十分ではありません。
長年の低成長に慣れた社会全体の「成長に対する考え方」、いわば成長マインドセットを転換できるかが問われています。
高い目標を掲げ、リスクを取って投資し、その成果を賃金や社会全体に還元する。
AIやロボティクスは、その循環を生み出すための手段であり、目的ではありません。
結論
AIがけん引する景気回復は、確かに現実のものとなっています。
しかし、それが一過性のブームで終わるのか、持続的な成長につながるのかは、今後の政策と企業・個人の選択にかかっています。
消費税減税という分かりやすい論点だけでなく、賃金、生産性、投資、為替・金利といった構造的課題をどう組み合わせるのか。
「貯蓄から投資へ」「高い成長目標を」という言葉を、スローガンで終わらせない議論が、いま求められています。
参考
・日本経済新聞社「AIけん引、内外で回復続く 新春景気討論会」
・日本経済新聞社「今後の経済の焦点は 貯蓄から投資へ 高い成長目標を」
・日本経済研究センター 新春景気討論会
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

