プラザ合意から40年 ― 国際経済と日本の課題を考える

政策

1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルで結ばれた「プラザ合意」。ドル高を是正するために、米・日・独・仏・英の5カ国が協調介入を決めた歴史的な出来事から、今年で40年がたちました。
この40年間で、為替や貿易、国際金融の構造は大きく変わりましたが、同時に「歴史は繰り返すのではないか」という問いも浮かびます。今回は、当時と現在の米国経済の共通点、日本とドイツの違い、そしてグローバル経済のもろさについて整理してみます。


レーガン時代とトランプ時代 ― 「双子の赤字」の再来?

東京大学名誉教授の伊藤元重氏が指摘するのは、40年前のレーガン政権と現在のトランプ政権の共通点です。
レーガン大統領は大型減税で景気を刺激しましたが、結果的に金利高・ドル高・財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」に直面しました。

いまのトランプ政権も減税政策を進めつつ、金利を積極的に下げていません。そのため為替はドル高傾向が続き、当時と似た構図が見えてきます。米国経済が再び「双子の赤字」に陥るのかが注目されます。


日本とドイツ ― 為替変動と通貨戦略の違い

学習院大学の清水順子氏は、この40年での日本とドイツの分岐を強調します。
日本は為替変動に翻弄され、コストの安いアジアへ生産移転を進めました。その結果、輸出価格を十分に上げられず、資源価格の高騰で交易条件が悪化しました。

一方のドイツは、自国通貨建て輸出比率が高く、ユーロ導入後も安定した為替環境のもとで輸出価格を着実に引き上げてきました。
日本が為替の影響を克服するには、アジアの金融協力と円の国際化が不可欠だと清水氏は説きます。


日本企業の強みとリスク ― GVCの功罪

慶応義塾大学の小橋文子氏は、日本企業が築いたグローバル・バリューチェーン(GVC)の功績を評価します。
部品調達から生産・組み立て、物流・販売までを複数国で展開するネットワークは、日本企業の競争力の源泉となってきました。

しかし同時に、GVCは「もろさ」も抱えています。ある拠点でショックが起きれば、他の拠点に連鎖的に波及する。さらに、地政学的対立や保護主義の高まりは、GVCの再編=地経学的分断を加速させる可能性があります。


日本の財政・社会保障 ― 連立政権と国民負担

プラザ合意から40年を経た今、日本国内でも税財政をめぐる議論が揺れています。

  • ガソリン税の暫定税率廃止は、財源不足や脱炭素への逆行というリスクをはらむ(佐藤主光氏)。
  • 医療保険の給付範囲をどう見直すか。OTC薬への置き換えなど、自己負担と保険給付のバランスを考える必要がある(五十嵐中氏)。

社会保険料や財政赤字の議論は、与党の枠組みや連立次第で方向性が大きく変わり、国民生活に直結します。


ポピュリズムの台頭と危うさ

さらに気になるのがポピュリズムの台頭です。
慶応大の井手英策氏は、1930年代の日独でファシズムが台頭する直前の状況に似ていると警鐘を鳴らします。給付金や減税などの「人気取り」政策は、民主主義の健全性を損なう危険性があるというのです。

一方、日本大学の西田亮介氏は、新興政党が「ポピュリズムを装うことで大政党の警戒を解き、裏で組織を拡大する」戦略を指摘しています。
つまり、私たち有権者自身が政策の本質を見抜く目を持たなければ、政治が短期的な財政拡張に流されるリスクがあります。


おわりに ― 歴史から何を学ぶか

プラザ合意から40年。米国の「双子の赤字」、日本の為替変動と国際競争力、GVCのもろさ、そして財政とポピュリズム。
それぞれは一見バラバラの論点に見えますが、共通しているのは国民生活に直結する「経済の持続可能性」です。

歴史を単なる過去の出来事とせず、今と未来を考える手がかりにすることが求められています。
40年前の教訓をどう活かすか――私たちの選択が試されています。


👉 参考:日本経済新聞「プラザ合意から40年の国際経済」(2025年9月26日付)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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