現役世代の負担が増える現実―健保組合の拠出金3.8兆円と賃上げ効果の行方―

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1. 過去最大となった「高齢者医療への拠出」

健康保険組合連合会(健保連)の集計によると、2024年度に健保組合が高齢者医療制度に拠出した金額は3兆8,591億円と過去最大となりました。
前年度から5.7%増加しており、この伸び率は賃金上昇を上回るペースです。

健保組合は主に大企業の従業員とその家族が加入しています。加入者本人が受ける医療費の支払いだけでなく、高齢者医療制度を支える拠出金も大きな負担となっているのです。


2. 賃上げ効果を打ち消す保険料率の上昇

2024年度、健保組合の平均保険料率は9.31%と0.04ポイント上昇しました。
保険料は「賃金 × 料率」で決まるため、賃金が上がるほど保険料収入も増えます。

内訳を見ると、

  • 賃上げ効果による保険料収入増:53.4%(約2,277億円)
  • 料率引き上げ効果による保険料収入増:25.1%(約1,069億円)

つまり、せっかくの賃上げの恩恵が、社会保険料の上昇によって一部相殺されているのです。
「賃上げ実感」が乏しい背景には、この構造があります。


3. 高齢者医療を現役世代がどう支えているか

高齢者医療制度の財源は大きく分けて税金と保険料で成り立っています。
その中で、現役世代の保険料が果たす役割は非常に大きいのが現実です。

  • 後期高齢者医療制度(75歳以上):財源の約4割を現役世代の保険料で賄う
  • 前期高齢者(65~74歳):国保に加入する人が多く、健保組合などからの納付金で支えられている

結果として、健保組合の経常支出のうち4割が高齢者医療向け拠出金
これは「現役世代の医療費」以上に「高齢者医療への支援」に資金が流れていることを意味します。


4. 2年ぶりの黒字でも喜べない理由

2024年度の健保組合全体の収支は145億円の黒字と2年ぶりに黒字化しました。
経常収入(9兆2,677億円)が支出(9兆2,531億円)を上回ったためです。

ただし、黒字の背景には「賃上げによる保険料収入増」が大きく影響しており、制度的に安定したわけではありません。
高齢者医療への拠出は今後も増える見通しであり、黒字は一時的な現象に過ぎない可能性が高いのです。


5. 人生100年時代に考えるべきこと

今回のデータは、次の二つの現実を突きつけています。

  1. 高齢者医療は「高齢者自身の窓口負担」だけでなく、「現役世代の保険料」でも支えられている
  2. 賃上げが実感につながらない背景に、社会保険料の上昇がある

人生100年時代において、医療制度を持続可能にするには、

  • 高齢者本人の負担割合
  • 現役世代の保険料負担
  • 税財源の配分

を含めた「全体のバランス調整」が不可欠です。


まとめ

  • 健保組合の高齢者医療拠出金は2024年度に3.8兆円と過去最大
  • 賃上げ効果の一部が社会保険料の増加で吸収され、生活実感につながりにくい
  • 現役世代の保険料が、高齢者医療を二重に支えている構図が続く
  • 制度の持続には「世代間の公平性」と「財源の再設計」が問われている

🖋️参考:日本経済新聞「健保組合、高齢者医療に3.8兆円拠出 現役の賃上げ効果低減」(2025年9月25日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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