第2回 日本の課題 ― 縮む労働力と増える介護負担

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認知症患者数の増加と人口構造の変化

日本は世界の中でも突出したスピードで高齢化が進んでいます。厚生労働省や国際医療福祉大学などの研究によれば、2022年時点で国内の認知症患者数は約440万人と推計されています。そして、2050年には580万人を突破するとの見通しです。

一方で、内閣府「高齢社会白書」によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は2021年の7,420万人から、2050年には5,275万人へと約29%減少すると予測されています。つまり、介護を必要とする高齢者は増えるのに、介護を担える働き手は減る――。これが日本が直面する最大の矛盾です。

非公式介護の比率 ― 家族にのしかかる負担

認知症ケアの大きな特徴は、病院や施設などの「公式な介護」だけでなく、家族が担う「非公式な介護」が圧倒的に多いことです。国際医療福祉大学・池田俊也教授らの研究によれば、日本における認知症の社会的コストの53.6%が家族介護による負担とされています。

これは米国(56.6%)とほぼ同じ水準であり、日本が「家族頼みの介護」に依存している現実を示しています。食事や排泄の介助、通院の付き添い、見守り――これらをすべて時間換算・金銭換算すると、想像以上に大きな負担です。

特に認知症は症状が進行すると「24時間目が離せない」状態になることも少なくなく、家族の生活そのものが制約を受けます。そのため、介護離職や家庭内不和、介助者自身の健康悪化といった二次的な問題を引き起こすリスクも高まります。

働き盛り世代への影響

介護と労働力の問題は切り離せません。日本総研の紀伊信之部長は、「2030年時点で働きながら介護を担う人は約318万人に達し、その経済損失は約9兆円」と試算しています。

この「働きながら介護」層の多くは40〜50代で、企業の中核を担う管理職世代です。もしこの世代が介護のために職場を離れれば、企業の競争力低下につながります。加えて、介護離職が増えれば個人の所得は減り、将来的な年金額にも影響が及びます。つまり、個人・家族・企業・社会のすべてに負の連鎖が広がる可能性があるのです。

「仕事を辞めるか、家族を介護するか」という二者択一に追い込まれるのではなく、両立を可能にする仕組みづくりが急務となっています。

地域格差と都市部の課題

日本では地域によって介護環境に大きな差があります。都市部では介護施設やサービスは多いものの、需要過多で入所待機者が数万人規模にのぼります。一方、地方では施設や人材が不足し、在宅介護を余儀なくされるケースが増えています。

さらに都市部では「核家族化」「共働き世帯の増加」「単身高齢者の増加」が進んでおり、介護を担える人の数そのものが限られています。その結果、介護する側が孤立するリスクが高まっているのです。

特に首都圏や大都市では「認知症患者の見守り」「徘徊による行方不明対応」といった地域課題も顕在化しています。家族だけで対応するには限界があり、自治体や地域コミュニティとの連携が不可欠です。

女性への偏りとジェンダー課題

日本における介護の担い手は依然として女性に偏っているのが現状です。厚労省の調査では、介護を主に担っている人の6割以上が女性であり、特に配偶者や嫁世代に負担が集中しています。

キャリア形成期にある女性が介護で労働市場から退出することは、本人のライフプランだけでなく、社会全体の人材活用にも大きな損失です。ジェンダー平等の観点からも、介護の負担をどう社会全体で分担していくかが問われています。

日本の特有の課題 ― 長寿社会の裏側

日本は世界有数の「長寿国」です。しかし、長寿は必ずしも「健康寿命」とイコールではありません。平均寿命と健康寿命の差はおよそ10年あり、多くの人が人生の最終段階で介護を必要とする時間を過ごすことになります。

この「寿命の延び」と「介護期間の長期化」が、日本の社会保障制度や家族の生活に重くのしかかっているのです。

まとめ(第2回)

  • 日本の認知症患者は2050年に580万人を突破する見込み。
  • 生産年齢人口は同時期に3割減少し、働き手不足と介護負担が同時進行する。
  • 認知症コストの過半は「非公式介護」、すなわち家族の無償労働が占めている。
  • 介護を担う働き盛り世代は約318万人に達し、経済損失は9兆円規模に。
  • 都市部の施設不足や女性への負担集中など、日本独自の課題も深刻。
  • 長寿社会の裏で「介護期間の長期化」が進み、社会全体の持続可能性を揺るがしている。

👉参考:日本経済新聞(2025年9月21日付 朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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