退職後の資産ポートフォリオはなぜ見直しが必要か

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――「人生100年時代」の資産活用入門(第1回)

定年退職を迎える頃、多くの方が気になるのは「これからの生活費をどうまかなうか」という点です。預金や退職金、年金などの資産をどのように活用すれば安心して暮らしていけるのか。現役時代は「いかに資産を増やすか」がテーマでしたが、退職後は「いかに資産を減らさずに、上手に使っていけるか」が大きな課題となります。

近年は「人生100年時代」と言われるようになり、60歳で退職しても40年近くの生活が残る可能性があります。そんな長い期間を支えるには、退職後の資産運用は現役時代と同じやり方では通用しません。本シリーズでは、野尻哲史さんの著書『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法』(日本経済新聞出版)を参考にしつつ、退職後のポートフォリオ設計を一緒に考えていきます。


現役時代と退職後の大きな違い

まず理解しておきたいのは、現役時代と退職後では「資産運用の前提条件」が大きく異なるという点です。

1. 収入の有無

  • 現役時代:毎月の給与から積み立てや投資に回すことが可能。失敗しても挽回できるチャンスがある。
  • 退職後:給与収入はなく、年金や退職金、預貯金など限られた資産を取り崩しながら生活することになる。投資で大きな損失が出ると生活そのものに直結する。

2. 運用期間の長さ

  • 現役時代:20年、30年といった長期運用が前提。株式の値動きによるリスクも、時間の経過と積立でならしていける。
  • 退職後:運用期間は徐々に短くなる。65歳から80歳まで運用するとしても15年ほどであり、長期投資によるリスク軽減効果は限定的になる。

3. 投資の目的

  • 現役時代:将来の資産形成、資産の最大化。
  • 退職後:生活資金の確保、資産寿命の延長、安心して資産を「使う」こと。

この違いを踏まえると、退職後は現役時代と同じ投資姿勢では危ういことがわかります。


なぜ「見直し」が必要なのか

退職後に資産運用をそのまま続けると、次のようなリスクがあります。

  1. 大きな下落に耐えられない
    株式中心のポートフォリオは、景気後退期に大きく値下がりする可能性があります。現役時代なら「積立で買い増しして回復を待つ」ことができますが、退職後は資産を取り崩しながら生活しているため、下落に直面するとそのまま資産が減少し続けてしまいます。
  2. 資産寿命が短くなる
    資産が大きく目減りすると、予定より早く取り崩しが進み、「お金が足りない」という不安につながります。
  3. 心理的なストレス
    老後は「安心感」が大切です。値動きの激しい商品ばかり持っていると、日々の市場変動が気になり、心穏やかに過ごせなくなることもあります。

したがって、退職を機に「どのくらいリスクを取るか」「どのように取り崩していくか」を考え、資産配分を見直す必要があるのです。


「資産形成」と「資産活用」は別物

資産運用には大きく分けて「資産形成期」と「資産活用期」があります。

  • 資産形成期(現役時代):長期的に資産を増やすために、株式や株式投信といったリスク資産を積極的に保有する。
  • 資産活用期(退職後):資産を取り崩しながら長く持たせるために、リスクを下げつつ安定性を重視する。

この2つは同じ「投資」であっても目的が異なるため、ポートフォリオの組み方も変える必要があるのです。


退職後に考えるべき3つの視点

野尻さんは退職後の資産運用を考えるうえで、次の3つの視点が大切だと指摘しています。

  1. どうやってリスクを下げるのか
    株式から債券や預金にシフトする、現金比率を増やすなど。
  2. どこまでリスクを下げるべきか
    「リスクゼロ」を目指すのではなく、自分の生活費や資産状況に合った水準を探ること。
  3. 加齢に応じてリスクをどう変化させるか
    資産を取り崩す時期に入ると、徐々に安全資産を増やすことが現実的になる。

これらの視点を持つことで、退職後の資産を「安心して長持ちさせる」方向性が見えてきます。


まとめ ―「増やす」から「守る」へ

退職後の資産運用では、現役時代と同じ姿勢ではリスクが大きすぎます。大切なのは「資産を大きく増やす」ことよりも「安心して使い続けられる状態をつくる」ことです。

  • 収入がなくなるからこそ、リスクを抑える
  • 運用期間が短くなるからこそ、資産寿命を意識する
  • 投資の目的が変わるからこそ、ポートフォリオも変える

次回(第2回)は、この「リスクを下げるための3つの視点」について、さらに具体的に掘り下げていきます。


(参考:日本経済電子版 2025年9月14日記事)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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