これまでのシリーズでは、一次相続と二次相続の違いや、小規模宅地の特例、配偶者居住権、生前贈与など、具体的な相続税対策を取り上げてきました。
最終回となる今回は、それらを総合しながら「実際に家族でどう進めていけばよいか」という行動のステップを整理します。相続税対策は税金の計算にとどまらず、「残された家族の生活を守ること」が本来の目的です。
ステップ1:財産の棚卸しをする
まずは、自分や両親が持っている財産を明確にしましょう。
- 預貯金
- 株式や投資信託などの金融資産
- 自宅や土地、賃貸物件などの不動産
- 生命保険
- 借入金や未払いの税金などの負債
これらを一覧にまとめることで、相続財産の「全体像」が見えてきます。特に土地は評価方法が複雑なので、早めに概算を把握しておくと安心です。
ステップ2:一次相続と二次相続のシミュレーションを行う
相続は一度きりではなく、配偶者が健在なら「二段階」で発生します。
- 一次相続では配偶者が守られる制度(配偶者控除や税額軽減)がある
- 二次相続では子どもが中心となり、負担が大きくなりやすい
だからこそ「一次でゼロでも二次で多額になる」可能性があります。シミュレーションで一次と二次の合計額を比較し、どの分け方が有利かを考えることが重要です。
ステップ3:活用できる特例・制度を確認する
代表的な節税策を改めて整理します。
- 小規模宅地等の特例
→ 自宅や事業用土地の評価額を大幅に下げられる。要件の確認が必須。 - 配偶者居住権
→ 配偶者が住み続けながら評価額を下げられる。二次相続で課税されないメリットあり。 - 生命保険金の非課税枠
→ 「500万円 × 法定相続人の数」で非課税。手元資金の確保にも有効。 - 生前贈与
→ 暦年贈与の110万円枠、相続時精算課税の活用。2024年以降は「7年ルール」に注意。
こうした制度は「誰が相続するか」「どの財産を対象にするか」で使えるかどうかが変わります。
ステップ4:家族で話し合う
相続対策は「財産をどう残すか」だけでなく、「家族関係をどう守るか」も大事です。
- 誰が自宅に住み続けるのか
- 誰がどの財産を相続するのか
- 税金や納税資金をどう準備するのか
話し合いが不足すると、せっかくの対策がトラブルの火種になることもあります。「争続」にならないよう、早めに共有しておきましょう。
ステップ5:専門家に相談する
相続税の試算や制度の適用可否は、一般の人が独力で判断するのは難しい部分があります。
- 税理士 → 相続税のシミュレーションや申告サポート
- 弁護士 → 遺言書の作成や紛争防止の助言
- 司法書士 → 相続登記や名義変更の手続き
- FP → 家計全体の中での資産移転のアドバイス
「相続税の節税額」と「専門家への相談費用」を比べれば、相談する方が得になるケースが多いのです。
ステップ6:実際に行動する
対策を考えるだけでは意味がありません。
- 暦年贈与を始める
- 遺言書を作成する
- 自宅の登記形態を見直す(二世帯住宅の場合など)
- 生命保険を活用して納税資金を準備する
できることから一歩踏み出すことが大切です。
まとめ:相続対策は「家族の未来づくり」
相続税対策というと「税金を減らすこと」ばかりに目が行きがちですが、本質は「残された家族が安心して生活できるようにすること」です。
- 財産の棚卸しから始める
- 一次と二次の両方を見据えてシミュレーションする
- 制度をうまく活用する
- 家族で早めに話し合い、専門家に相談する
この流れを押さえて行動すれば、相続に対する不安は大きく軽減できます。
「自分にはまだ先の話」と思わずに、今日からできることを少しずつ始めてみましょう。
(参考:日本経済電子版 2025年8月30日記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

