金への回帰と中国の台頭が映す「通貨Gゼロ」の現実

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1. ニューヨーク連銀地下に眠る金塊が示すもの

米ニューヨーク連邦準備銀行の地下24メートルには、重厚な鋼鉄シリンダーで守られた世界最大の金庫が存在します。そこに眠るのは6,300トンもの金塊。日銀を含む世界中の中央銀行や国際機関の預かり資産であり、時価総額は約103兆円に達します。
かつて金本位制からドル本位制へと移行した時代、各国中銀は「金を売りドルを買う」という行動を習慣化しました。しかしいま、その流れに逆行するように金が再び脚光を浴びています。

2. 中央銀行が金に回帰する理由

2024年時点で中央銀行による金保有量は3万7千トン台に達し、ブレトンウッズ体制下の1965年と同水準に戻りました。外貨準備に占める割合ではユーロを上回り、ドルに次ぐ第2の存在となっています。
ポーランド、インドネシア、タイなどが積極的に金を積み増しているほか、中国人民銀行はロシアによるウクライナ侵攻以降、10カ月連続で金を購入しました。背景には「ドル不信」があります。米国が地政学的リスクや財政赤字を膨らませるなか、「特定国に依存しない資産」として金が再評価されているのです。

3. 金価格高騰と中国の動き

2025年9月、ニューヨーク金先物価格はついに1トロイオンス=3,700ドルを突破。わずか2年で倍増しました。強気相場の牽引役となっているのは、リテール需要だけでなく中銀の大量購入です。
さらに注目すべきは、中国の官民一体の戦略です。民営最大手の赤峰吉隆黄金鉱業はAIを活用して探鉱を加速し、ラオスや中央アジアへ進出。上海黄金交易所は香港に「オフショア金庫」を設置し、人民元建ての金取引を開始しました。これは人民元の国際化を後押しする布石であり、ドル覇権を揺さぶる動きです。

4. 「通貨Gゼロ」時代の不安と秩序模索

基軸通貨ドルを巡る信認は揺らぎつつありますが、代替となる通貨も見えません。米カリフォルニア大のバリー・アイケングリーン教授が指摘するように、消去法として金に資金が流入する現状は「通貨Gゼロ」の一断面です。
一方で、金本位制の復活には物理的制約が大きく、現実的ではありません。全人類が掘り出した金の総量はわずか20万トン程度にすぎず、現代の膨張したマネーを裏付けるには到底足りません。

5. プラザ合意から40年 ― 新秩序の足音

1985年のプラザ合意はドル高是正に向けた国際協調の象徴でした。しかし40年を経た今、G7の存在感は薄れ、各国は「ドルか金か」という二者択一ではなく、多様な資産へと分散し始めています。
著名投資家レイ・ダリオ氏が「金融・経済・政治の大変動が数年以内に起こりうる」と語るように、ドル覇権が相対的に低下するなかで新しい秩序が模索されるでしょう。金の異常な人気は、その始まりを告げるシグナルにほかなりません。


まとめ

  • 中央銀行による金保有はブレトンウッズ体制期の水準に回帰。
  • 中国はAI活用や人民元建て金取引を通じ、金市場での存在感を急拡大。
  • 「ドル不信」と「代替通貨不在」が、金需要を押し上げる。
  • 1985年プラザ合意から40年、世界は基軸通貨なき時代へ移行しつつある。

👉参考:日本経済新聞 2025年9月22日付 朝刊


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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