マンション家賃「危険水域」──東京23区は所得の3割超、他都市も上昇

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「もう東京都心には住めないのではないか」。そんな声が現実味を帯びてきました。
近年、東京や大阪をはじめとする主要都市で、賃貸マンションの家賃がじわじわと上昇しています。食費や光熱費が値上がりする中で、住居費まで負担が増すと家計は直撃を受けます。しかも家賃は一度上がると下がりにくく、長期にわたって家計にのしかかります。

この記事では、日本経済新聞電子版(2025年9月4日付)で報じられた調査をもとに、主要都市の家賃高騰の実態と背景、そして家計に与える影響を整理していきます。


可処分所得の3割超を家賃が占める現実

不動産情報サービスのアットホームがまとめた調査によれば、東京23区、大阪市、名古屋市、札幌市、福岡市の家族層向け(50〜70㎡)賃貸マンションの平均募集家賃を、総務省「家計調査」にある勤労者世帯の可処分所得と比較したところ、2020年から2024年までの4年間で1〜5ポイント上昇しました。

  • 東京23区:34%(平均家賃21万円超)
  • 大阪市:29%
  • 名古屋市:25%前後
  • 札幌市:20%前後
  • 福岡市:23%(ただし上昇幅は最大の5.4ポイント)

つまり、手取りの3割前後が家賃に消える家庭が珍しくなくなっています。特に東京23区では、「危険水域」とされる3割超えに突入しました。

ファイナンシャルプランナーで不動産市場にも詳しい渕ノ上弘和氏は、「家賃は手取りの25〜30%程度が上限。これを超えると家計運営は不安定になりやすい」と指摘します。


背景① 分譲マンション価格の急騰

家賃高騰の最大の要因は、分譲マンション価格の急激な上昇です。
不動産経済研究所によると、2020年から2024年の間に東京23区の新築マンション価格は約45%も上昇しました。

「買いたくても買えない」世帯が増え、賃貸にとどまるケースが増えました。結果的に、都心での居住を望む比較的高所得の世帯が賃貸に流れ込み、「高くても払える層」が相場を押し上げるという構図が生まれています。

例えば、年収1,000万円超の共働き世帯でも、「70㎡以上の家族向け物件なら家賃30万円前後」という現実に直面すると、購入に踏み切れず賃貸を選ぶ。しかし、その選択がさらに家賃相場を引き上げる、という悪循環です。


背景② コロナ後の「都心回帰」

2020年はコロナ禍でリモートワークが浸透し、「郊外へ移住」「広さを優先」といったニーズが高まりました。都心の家賃は一時的に弱含みましたが、2023年以降は状況が逆転。出社回帰が進み、「やはり通勤に便利な都心で暮らしたい」というニーズが再燃しました。

特に共働き世帯の場合、夫婦それぞれの勤務先へのアクセスを考えると、都心や主要ターミナル駅周辺の利便性を優先せざるを得ません。結果として、都心部の需要が再び集中し、家賃が急騰しています。


背景③ 大家側の事情も

家賃上昇には大家の事情もあります。
修繕費や光熱費の高騰により、建物維持コストが増大。これを賃料に転嫁しようとする動きが広がっています。

賃貸契約は2年ごとの更新が多く、家賃改定は新規募集時や更新時に限られます。したがって家賃の動きは分譲価格よりも緩やかですが、「上げ待ち」の物件は相当数あるとみられ、今後もじわじわ上昇する可能性が高いのです。


家計にとってのリスク

「住居費=手取りの3割」を超えると、家計はどのような影響を受けるのでしょうか。

  1. 貯蓄余力の低下
     毎月の固定費が増えると、余剰資金を貯蓄や投資に回す余裕がなくなります。突発的な病気や失業といったリスクに備える資金が不足しやすくなります。
  2. 教育費とのバッティング
     中学・高校・大学と進学するにつれて教育費は膨らみます。世帯収入が高くても、住宅費が30%を超えると教育資金を確保するのが難しくなるケースが増えます。
  3. 老後資金への影響
     住宅ローンを組んで持ち家を購入すれば「返済=資産形成」になりますが、賃貸は「掛け捨て」。家賃負担が重いと、老後資金の準備が後回しになり、将来の不安を抱えやすくなります。

住まい選びのシビアな選択

こうした状況のなか、世帯は「どこに住むか」という選択を従来以上にシビアに考えざるを得ません。

  • 利便性を重視し、家賃負担を受け入れる
     共働きで都心に住み続ける。ただし、貯蓄や教育費との両立が難しくなる可能性がある。
  • 郊外や準都心に移り、余裕を確保する
     通勤時間は増えるが、家賃負担を下げて貯蓄や将来資金に回す余地を作る。
  • 思い切って購入を検討する
     高いとはいえ、ローン返済は資産形成につながる。長期的に見れば「掛け捨て」より有利になる場合も。

まとめ:住宅費は「家計のバランスシート」

かつて家賃は物価変動が小さい安定した支出とされてきました。しかし今や、食費や光熱費と同じように「じわじわ上がる固定費」となり、家計の大きなリスク要因に変わりつつあります。

渕ノ上弘和氏が語るように、「利便性を優先するのか、貯蓄余力を確保するのか」を冷静に見極める必要があります。住まい選びは単なる「場所選び」ではなく、教育・老後・緊急時対応を含めたライフプランそのものをどう設計するかに直結しています。

東京23区の平均家賃が所得の34%に達した今、私たちは改めて「住まいと家計のバランスシート」を見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。


(参考:日本経済電子版 2025年9月4日記事)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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