2028年4月から遺族年金制度が大きく変わります。新聞などでは「改悪だ」という言葉も飛び交っていますが、実際には一概にマイナスと断定できるものではありません。家族の形や収入の状況によって、影響はまったく違ってくるのです。
この記事では、今回の改正内容を整理しつつ、「誰が恩恵を受けるのか」「どんな人が注意すべきなのか」をじっくり見ていきましょう。
1. 遺族年金とは? 現行制度の基本
まずは制度の基本を振り返ります。
遺族年金には大きく分けて次の2つがあります。
- 遺族基礎年金:国民年金に加入していた人が亡くなった場合に支給。主に子のいる妻や夫が対象。
- 遺族厚生年金:厚生年金加入者が亡くなった場合に支給。子がいなくても配偶者に支給されることがある。
現行制度では、夫が亡くなったとき、30歳以上60歳未満で子どもがいない妻は、遺族厚生年金を無期限で受け取ることができます。
一方で夫が遺された場合、55歳未満だと遺族厚生年金の受給権はありません。この男女差は長年課題とされてきました。
2. 改正の全体像
2028年4月からの改正では、次のような変更が予定されています。
- 夫も年齢に関係なく遺族厚生年金を受け取れるように
- 子が3人以上いる場合、遺族基礎年金の加算が増える
- 子がいない30歳以上60歳未満の妻(または夫)は、有期5年の遺族厚生年金に変更
- 有期終了後も条件次第で「継続給付」がある仕組みを新設
- 再婚しても老後の年金に厚生年金の記録を加算できる制度を創設
つまり「短縮」と「拡充」が混ざり合った制度見直しです。
3. 改正で恩恵を受ける人たち
夫
最大のプラス改正は夫です。
これまで55歳未満の夫は、妻が亡くなっても遺族厚生年金を受け取れませんでした。しかし改正後は年齢制限がなくなり、若い夫でも遺族厚生年金を受け取れるようになります。
子どもが多い世帯
遺族基礎年金は「子の数」で金額が決まりますが、改正により3人以上の子がいる家庭では受給額が増えることになります。大家族にとっては確実にプラスです。
共働き・高所得夫婦(いわゆるパワーカップル)
これまで妻の年収が850万円を超えると遺族厚生年金は支給されませんでした。しかし改正後の有期年金には年収制限がなくなるため、高収入の妻でも受け取ることが可能になります。共働きで双方に高収入がある夫婦は、改正の恩恵を強く受ける層と言えるでしょう。
4. 「改悪」と言われる理由──子のいない妻の有期化
今回の改正が「改悪」と呼ばれる最大の理由は、子どもがいない配偶者の遺族厚生年金が無期限から有期(基本5年)に短縮される点です。
- 40歳未満の妻 → 5年間の有期年金
- 40歳以上の妻 → 従来どおり無期限
- 30歳未満の妻 → もともと5年有期なので変更なし
たとえば、35歳で夫と死別した妻は、これまでは無期限で受け取れたものが、改正後は基本5年間に限られます。この点が「生活不安を招く」と批判されているのです。
5. それでも「5年で終わらない」仕組み
ただし実際には「5年で完全に終わる」わけではありません。
新たに導入される「継続給付」によって、所得が一定以下であれば65歳未満まで受給が続く可能性があります。
継続給付の仕組み
- 国民年金保険料を全額免除されるような低所得者 → 満額で継続給付
- 所得がある人 → 年収が上がるほど給付は減額
- 扶養家族がいない場合、妻の給与年収が428万円以上で継続給付は完全になくなる(大和総研の試算)
つまり、平均的な女性労働者の年収(約419万円)であれば給付が続くため、「5年で打ち切り」のケースは限られるというのが実態です。
6. 再婚時の取り扱いが改善
現行制度では、再婚すると遺族厚生年金は打ち切られます。これが「再婚の壁」として批判されてきました。
改正後は、有期・継続給付が終了する際に、亡くなった配偶者の厚生年金加入記録を自分の年金記録に加算できる新制度が導入されます。これは再婚しても消えないため、老後の年金額を増やすことが可能です。
再婚しても「全てを失う」ことはなくなる点は、安心材料といえるでしょう。
7. 家族パターン別シナリオ
改正の影響をより具体的に考えるために、家族パターン別に整理してみましょう。
- 子どもがいる家庭
→ 遺族基礎年金が手厚くなり、特に子が3人以上ならプラス。 - 夫が残されるケース
→ 年齢制限が撤廃されるため、若い夫でも遺族厚生年金を受給可能。 - 子のいない40歳未満の妻
→ 有期化で不安。ただし年収が低ければ65歳まで継続給付がある。 - 共働き・高所得世帯
→ 年収制限撤廃でプラス。これまで対象外だった妻も受給できる。 - 再婚を考える人
→ 新制度により、老後年金に反映される仕組みが追加。再婚による損失が減る。
8. 「改悪」か「見直し」か?
制度改正を「改悪」ととらえるか「多様化への対応」とみるかは、立場によって異なります。
- マイナス面:子のいない若い妻にとっては無期限から有期に変わる点で大きな不安。
- プラス面:夫や高所得世帯への拡充、低所得者への配慮、再婚への柔軟対応。
制度の見直しは「一律の支給から、収入や状況に応じた支給へ」とシフトする方向にあります。
9. 生活設計への影響と備え
遺族年金は「いざというときの生活の支え」です。改正後は、自分や家族の働き方・年収によって給付額や受給期間が変わるため、事前のシミュレーションが欠かせません。
- 子がいない30代・40代 → 万一に備えて生命保険や貯蓄でリスクをカバー
- 共働き夫婦 → 年収制限撤廃の恩恵を確認
- 再婚予定がある人 → 老後の年金加算の仕組みを理解
自分の家族パターンに照らし合わせて、「どの制度がどのように適用されるのか」を把握しておくことが重要です。
まとめ
遺族年金の改正は、「短縮」と「拡充」の両面があります。
- 子のいない若い配偶者には厳しい側面がある
- 夫・高所得世帯・大家族にはプラス面が大きい
- 所得に応じた継続給付や再婚後の老後年金加算など、救済策も導入される
つまり今回の改正は、単なる「改悪」ではなく「家族の多様化に合わせた制度見直し」と言えるでしょう。
👉 読者の皆さんも、自分や家族の働き方・年齢・収入を踏まえて「もしものとき、どうなるか」を一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
(参考:日本経済新聞 2025年9月17日記事「遺族年金が改正へ、夫・高所得夫婦・大家族…恩恵があるのは誰?」)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

