住宅税制は「減税ありき」ではなく、その政策効果が問われる時代に入っています。
国土交通省が設置する住宅税制のEBPMに関する有識者会議では、マンション長寿命化促進税制や住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置について、データに基づく検証が進められています。
今回は、マンション長寿命化促進税制の実績と政策効果、そして贈与税非課税措置の行動変化への影響について整理します。
住宅税制にも求められるEBPM
EBPMとは、エビデンスに基づく政策立案のことです。
減税制度についても、
・本当に政策目的に沿った行動を促しているか
・財政負担に見合う効果があるか
・制度設計は適切か
といった検証が不可欠になっています。
今回の有識者会議では、マンション長寿命化促進税制のロジックモデル案と、住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置の効果検証案が示されました。
マンション長寿命化促進税制の概要
この制度は、高経年マンションの適切な修繕と管理を後押しするために創設されたものです。
適用要件
次のすべてを満たす必要があります。
- 築20年以上経過
- 総戸数10戸以上
- 過去に長寿命化工事を実施
- 管理計画認定マンション、または助言・指導対象の管理組合であること
これらの条件を満たすと、長寿命化工事を実施した翌年度の建物部分の固定資産税が減額されます。
減額割合は6分の1から2分の1の範囲内で、市町村条例で定められます(参酌基準は3分の1)。
適用実績は堅調に増加
令和7年7月調査時点で、
・適用管理組合数:152組合
・適用戸数:1万2459戸
・減収額:約3億円
という実績が示されました。
分譲マンションのうち築20年以上の戸数は100万戸単位で存在しており、対象となり得る母数は非常に大きい状況です。
その中で1万戸超の適用があるという点は、制度が一定程度活用されていることを示しています。
制度改善による利用促進
令和7年度税制改正では、重要な簡素化が行われました。
従来は区分所有者ごとに申告書の提出が必要でしたが、改正により、管理組合が必要書類を提出すれば適用できる仕組みに変更されました。
この変更は実務的には非常に大きいものです。
マンションでは個々の所有者の合意形成や手続き負担がハードルになります。
管理組合単位で完結できるようにしたことは、利用拡大に直結する制度設計の改善といえます。
本当に政策目的に寄与しているのか
制度の政策目的は、
・修繕積立金の確保
・長寿命化工事の適切な実施
・管理組合の合意形成の後押し
にあります。
問題は、固定資産税の減額がどの程度「工事実施の意思決定」に影響を与えているかです。
工事費は建築資材価格の上昇等により増加傾向にあります。
減税額は一定のインセンティブではありますが、工事総額と比較すると限定的である可能性もあります。
今後のEBPM検証では、
・減税が工事実施率をどれだけ押し上げたか
・修繕積立金不足の解消に寄与しているか
といった定量分析が焦点になるでしょう。
住宅取得資金贈与の非課税措置の行動変化
もう一つの検証対象が、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置です。
アンケート分析の結果、
・贈与があると借入額は減少
・住宅面積は拡大傾向
・1000万円超の高額贈与がある場合は購入価格も上昇
という傾向が示されました。
つまり、非課税措置は単に資金移転を促すだけでなく、住宅取得の規模や価格にも影響を与えていることがわかります。
一方で、高額贈与が住宅価格上昇に結びつくのであれば、市場価格を押し上げる要因となっていないかという検証も必要です。
財政負担とのバランス
マンション長寿命化促進税制の減収額は約3億円とされています。
財政規模から見れば大きな金額ではありませんが、
・将来的な建替えコストの抑制
・老朽化による社会的損失の回避
につながるのであれば、費用対効果は高い可能性があります。
税制は単年度の減収だけで評価するのではなく、中長期的な社会的コスト削減効果を含めて検証する必要があります。
今後の検証と実務上の注目点
有識者会議では、5〜6月をめどに新たな中間取りまとめが予定されています。
今後注目すべきポイントは、
・適用拡大の障壁は何か
・固定資産税減額水準は適切か
・管理計画認定制度との連動効果
・築古マンション増加への対応力
といった点です。
マンション管理の問題は、空き家問題と並ぶ都市政策上の重要課題です。
税制がどこまで実効性を持つかは、今後のEBPM検証にかかっています。
結論
マンション長寿命化促進税制は、一定の利用実績を積み重ねつつあります。
制度簡素化によって今後さらに活用が進む可能性があります。
一方で、築20年以上のマンションは100万戸単位で存在しており、適用戸数はまだ限定的です。
税制はあくまで行動変容を促す手段です。
減税の存在が合意形成や修繕実施の決断をどこまで後押しできるかが、本質的な評価軸になります。
住宅政策においても、エビデンスに基づく検証の視点が今後ますます重要になるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年2月16日
国土交通省 住宅税制のEBPMに関する有識者会議資料
令和7年度税制改正大綱
国土交通省 管理計画認定制度関連資料

