2026年2月、高市早苗首相は施政方針演説において、飲食料品を対象とした2年間の消費税減税の早期法案提出を目指す方針を示しました。あわせて「責任ある積極財政」を掲げ、多年度にわたる成長投資や基金活用の拡充も打ち出しています。
物価高が続くなかでの減税は家計支援策として一定の支持を得やすい政策です。しかし同時に、市場では財源やインフレへの影響を懸念する声も広がっています。本稿では、消費減税と積極財政の政策パッケージを整理し、とくに「インフレ税」という視点から論点を整理します。
1.消費減税の位置づけと政策全体像
高市首相は、飲食料品の消費税ゼロ(2年間)について、超党派の国民会議で検討を加速し、夏前の中間とりまとめ、関連法案の早期提出を目指すと表明しました。
この消費減税は、将来的に導入を目指す給付付き税額控除までの「つなぎ措置」と位置づけられています。給付付き税額控除は、低・中所得層に対して税額控除と給付を組み合わせる制度であり、逆進性対策としては理論的に整合的です。しかし制度設計には時間を要します。
一方で、減税の財源については「特例公債(赤字国債)に頼らない」とされていますが、具体的な恒久財源は明確ではありません。2年間で約10兆円規模とされる減収に加え、将来的な給付付き税額控除の財源確保も課題となります。
同時に、政府は成長・危機管理投資を多年度で別枠管理する仕組みを導入し、量子技術や創薬など戦略分野への官民投資を拡充する方針も示しています。つまり今回の政策は、単なる減税ではなく、積極財政と成長戦略を組み合わせた包括的な財政運営の転換を意図するものといえます。
2.市場が警戒するポイント
市場が注目しているのは、財政規律との整合性です。
政府は「政府債務残高のGDP比を安定的に引き下げる」との姿勢を示していますが、減税と投資拡大を同時に進める場合、短期的には財政赤字が拡大する可能性があります。
仮に国債発行が増え、長期金利が上昇した場合、金融政策との連動も焦点となります。日銀が国債を購入すれば円安圧力が強まり、為替介入が行われる可能性もありますが、その効果は限定的との見方もあります。
さらに、株高が続いている現状についても、実質成長によるものか、それとも円安による海外収益の円換算増やインフレによる名目値の押し上げなのか、慎重な見極めが必要です。実質GDPはコロナ禍前水準にとどまっており、成長の実態が伴っていないとの指摘もあります。
3.見落とされがちな「インフレ税」という視点
ここで重要になるのが「インフレ税」という概念です。
財源が十分に確保されないまま減税や給付が行われ、結果としてインフレが加速すれば、現金や預金の実質価値は目減りします。これは法律上の税ではありませんが、購買力が家計から政府へ実質的に移転する効果を持ちます。
インフレは政府債務の実質負担を軽減する一方で、現金保有者や固定所得層には不利に働きます。とくに資産運用を十分に行っていない世帯ほど影響を受けやすくなります。
減税は一時的に可処分所得を増やしますが、インフレ率がそれを上回れば、実質購買力はむしろ低下します。つまり、名目減税と実質負担増が同時に起こる可能性があるのです。
減税政策を評価する際には、「いくら減税されたか」という名目額だけでなく、「物価上昇を加味した実質負担がどう変化するか」を冷静に見なければなりません。
4.給付付き税額控除との関係
消費税減税は逆進性対策としては分かりやすいものの、高所得層にも恩恵が及ぶため、政策効率の面では課題があります。
これに対し、給付付き税額控除は対象を絞った再分配が可能です。ただし、制度設計が複雑であり、所得把握の精度や事務コストも問題となります。
仮に減税を先行させ、その後に給付付き税額控除を導入する場合、政策の連続性と財源確保の道筋を明確に示さなければ、市場の信認を損なうおそれがあります。
結論
今回の施政方針演説が示したのは、減税と成長投資を同時に進める「積極財政」への明確な転換です。家計支援と産業競争力強化を両立させる意欲的な構想といえます。
しかし、減税政策を評価する際には、次の3点を冷静に検討する必要があります。
1.恒久的な財源の裏付けはあるか
2.インフレを通じた実質負担の変化をどう見るか
3.財政規律と市場の信認をどう維持するか
減税は分かりやすい政策ですが、インフレ税という見えにくい負担が存在することも事実です。名目の減税額だけでなく、実質的な家計の購買力がどう変わるのかという視点を持つことが、今後ますます重要になります。
参考
日本経済新聞「消費減税『早期に法案』 首相が施政方針演説」2026年2月20日夕刊
日本経済新聞「減税時に勘案すべきインフレ税負担」十字路、2026年2月20日夕刊

