日本の相続制度は、これまで「家族の財産承継」を基本理念として設計されてきました。
しかし、社会構造は大きく変化しています。
・少子高齢化の進行
・未婚率の上昇
・資産の高齢世代への集中
・国際的な資本移動の拡大
こうした環境の変化は、相続制度にも影響を及ぼします。
では、相続制度は今後どのように進化していくのでしょうか。
本稿では、制度の方向性を整理します。
これまでの進化の流れ
近年の相続制度改正には、一定の共通点があります。
・配偶者居住権の創設
・遺留分制度の見直し
・事業承継税制の拡充
・評価制度の適正化
いずれも、生活保障と経済活動の両立を意識した改正です。
単なる増税・減税ではなく、制度整合性の調整が中心となっています。
進化の方向性① 公平性の再構築
今後の大きなテーマは「公平性」です。
特に、
・市場価格と評価額の乖離
・租税回避的スキーム
・資産格差の拡大
に対する調整は継続する可能性が高いと考えられます。
貸付用不動産評価見直しのように、課税ベースの適正化は今後も進むでしょう。
進化の方向性② 生活保障重視
配偶者居住権の創設は、生活保障を制度に組み込む動きでした。
今後も、
・高齢配偶者の保護
・未成年者の保護
・障害者への配慮
といった視点が強化される可能性があります。
相続制度は単なる財産分配制度ではなく、生活保障制度の一部として位置付けられつつあります。
進化の方向性③ デジタル化と透明性
資産把握の高度化も進むでしょう。
・金融情報の電子化
・国際的な情報交換
・デジタル遺産への対応
相続財産の範囲自体が変化しています。
暗号資産やオンライン資産の管理は、制度設計の新たな課題です。
透明性の確保は不可欠となります。
進化の方向性④ 国際化への対応
国際相続の増加も無視できません。
・海外資産の把握
・二重課税調整
・居住地の選択
資産の国際移動が進むなかで、国内制度だけで完結しない課題が増えています。
国際的整合性を意識した制度調整が必要になります。
大幅な増税はあるか
相続税の最高税率引上げや基礎控除の大幅縮小といった改正は、政治的影響が大きいため慎重に扱われます。
短期的に抜本的増税が行われる可能性は高いとはいえません。
むしろ、
・評価方法の調整
・特例制度の見直し
・適用要件の厳格化
といった技術的修正が中心になる可能性が高いと考えられます。
制度の本質的役割
相続制度の本質は、次の三点に整理できます。
- 財産承継の秩序維持
- 世代間再分配
- 生活保障
今後の進化も、この三点のバランス調整として進むでしょう。
どれか一つに極端に偏ることは考えにくいといえます。
老後設計との接続
相続制度は、老後設計と切り離せません。
・年金制度
・資産取り崩し戦略
・配偶者保護制度
これらと相互に影響します。
制度の進化を見据えつつも、個々の生活設計は制度依存になりすぎないことが重要です。
制度は変化しますが、生活の安定を優先する原則は変わりません。
結論
相続制度は、急激な変化よりも段階的な調整を重ねながら進化していく可能性が高いと考えられます。
方向性は、
・課税ベースの適正化
・生活保障機能の強化
・国際対応と透明性向上
に集約されます。
制度の将来を過度に恐れるのではなく、その本質を理解し、総合的な生活設計を行うことが重要です。
相続制度は固定的なものではありません。
社会構造の変化に応じて調整され続ける制度であるという視点が必要です。
参考
・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
