老後設計において最大のテーマは「いくら残せるか」ではなく、「どう取り崩すか」です。
長寿化が進む現代では、資産を持ち続けること自体が目的ではありません。生活の質を維持しながら、計画的に活用することが重要です。
しかし、多くの方が「どの順番で」「どのくらい」「何を」取り崩せばよいのか分からないまま、不安を抱えています。
本稿では、取り崩し戦略を組み立てる具体的な手順を整理します。
取り崩し戦略の基本構造
取り崩し設計は、次の三層構造で考えます。
- 公的年金(基盤)
- 安定資産(生活補完)
- 変動資産(余裕部分)
まず年金で最低生活費をどこまで賄えるかを確認します。不足部分を安定資産で補い、余裕資金を変動資産から取り崩します。
この順序を明確にすることが第一歩です。
ステップ1:生活費の確定
最初に行うべきことは、年間生活費の把握です。
・固定費(住居費、保険料、通信費)
・変動費(食費、交際費、旅行費)
・医療費の想定
過度に楽観も悲観もせず、現実的な水準を設定します。
この金額が、取り崩し設計の出発点です。
ステップ2:年金収入との比較
次に、公的年金の受給額を確定します。
繰下げ受給を選択する場合は、受給開始年齢ごとの額を比較します。
生活費との差額が、年間取り崩し必要額になります。
ここで初めて、具体的な取り崩し規模が見えます。
ステップ3:資産の分類
保有資産を性格別に分類します。
・現預金
・債券型商品
・株式・投資信託
・不動産
流動性と価格変動リスクを基準に整理します。
取り崩し戦略は、資産の性格に応じて組み立てます。
ステップ4:取り崩し順序の設計
一般的な順序は次のとおりです。
- 生活防衛資金を確保(2〜3年分)
- 価格変動の小さい資産から補填
- 市場状況を見ながら変動資産を取り崩す
暴落局面で株式を売却しないよう、緩衝資金を設けることが重要です。
取り崩しは機械的ではなく、状況に応じて柔軟に行います。
ステップ5:年間取り崩し率の目安
取り崩し率の目安として、保有資産の3〜4%程度を上限とする考え方があります。
ただし、これは一律基準ではありません。
・年齢
・健康状態
・家族構成
・資産総額
によって適正率は異なります。
重要なのは、長寿リスクを織り込んだ設計です。
ステップ6:医療・介護リスクへの備え
高齢期には、医療・介護費用の不確実性があります。
取り崩し戦略では、
・介護費の想定
・住み替え費用
・予備費の確保
をあらかじめ織り込みます。
過度に悲観的になる必要はありませんが、無視もできません。
ステップ7:定期的な見直し
取り崩し戦略は、一度作れば終わりではありません。
・資産残高の推移
・市場環境
・生活費の変化
を踏まえ、毎年見直します。
柔軟性が長期設計の鍵です。
相続との関係
取り崩し戦略は、相続と対立するものではありません。
生活を優先した結果として残る資産を、合理的に承継する設計が自然です。
過度に残すことを目的とすると、生活の質が低下する恐れがあります。
順序を守ることが重要です。
結論
取り崩し戦略は、老後設計の中心です。
年金を基盤に、不足分を計画的に補い、長寿リスクに備える。
資産を減らすことを恐れず、活用する視点が重要です。
取り崩し設計は消極的な防衛策ではありません。
人生後半を主体的に生きるための積極的戦略です。
計画的活用こそが、長寿時代の資産設計の核心です。
参考
・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
