金(ゴールド)は長らく「究極の安全資産」と呼ばれてきました。
戦争や金融危機、通貨不安の局面では資金の逃避先となり、株式とは異なる値動きをすることでポートフォリオの安定装置として機能してきました。
しかし、足元ではその常識が揺らいでいます。
金や銀の価格変動はテクノロジー株指数を上回る水準に達し、株式市場と同方向に動く場面も珍しくありません。
本稿では、金銀相場の乱高下の背景と、安全資産の意味がどう変質しているのかを整理します。
金価格の変動性がテック株を上回るという異例
シカゴ・オプション取引所(CBOE)が算出する金価格の変動性指数は、2026年1月に40を突破しました。
これは、大型ハイテク株で構成されるナスダック100の変動性指数を上回る水準です。
変動性指数とは、市場が想定する「今後の価格変動の大きさ」を示す指標です。
つまり、市場参加者は金価格が大きく動くと織り込んでいるということになります。
かつては「株が荒れれば金は落ち着く」と言われましたが、いまや金そのものがハイボラティリティ資産になりつつあります。
なぜ金が乱高下しているのか
1. アジアマネーの流入
カナダのBCAリサーチによると、2025年後半以降、中国を中心としたアジアから金ETFへの資金流入が急増しています。
背景には以下の要因があります。
- 中国の実質金利低下
- 国内投資機会の不足
- 価格上昇局面での追随投資
価格が上昇するとさらに資金が流入し、上昇を加速させる。
その一方で、価格が下落すると解消売りが出やすい。
この循環が相場の振れ幅を拡大させています。
2. ETF・先物市場の拡大
金の価格形成は、現物市場よりもETFや先物市場の影響を強く受けるようになりました。
代表例がSPDR Gold Sharesです。
ETFは株式と同様に売買できるため、短期資金が出入りしやすく、価格変動が増幅されやすい構造を持っています。
金と株が同方向に動く理由
従来、金は株式と逆相関の関係にあるとされてきました。
しかし、最近は同方向に動く場面が目立ちます。
たとえば、米CPIが市場予想を下回ると、米国債利回りが低下します。
利息収入のない金の相対的魅力が高まり、金価格は上昇します。
一方で、株式市場も「金利低下=割引率低下」として上昇することがあります。
結果として、金と株が同時に上昇する局面が生まれます。
逆に、AIショックなどで株式市場が急落した局面では、不安心理が先物市場に波及し、金まで売られるケースも見られました。
安全資産の「補完機能」が弱まっているのです。
「安全資産」とは何かを再定義する
金は本質的に無国籍通貨であり、国家信用から独立した資産です。
その価値の裏付けは「希少性」と「歴史的信認」にあります。
しかし、短期市場では以下の要素が価格を左右します。
- 実質金利
- 為替
- ETF資金フロー
- 投機ポジション
つまり、理論的価値よりも需給要因が支配的になっているのです。
安全資産とは「価格が動かない資産」ではなく、「制度的信用が崩れたときに最終的に残る資産」と定義し直す必要があります。
短期の値動きが荒いからといって、本質的価値が消えるわけではありません。
ただし、ポートフォリオ安定装置として期待するなら、過度な比率は慎重に考えるべき局面にあります。
分散投資の視点から考える
分散投資は「価格が逆に動く資産を組み合わせること」と単純に理解されがちですが、実際は「異なるリスク要因を組み合わせること」です。
現在の金は、
- インフレ期待
- 金利動向
- 地政学リスク
- 投機資金
といった要素に敏感に反応します。
株式とはリスク要因が完全に独立しているわけではありません。
そのため、
- 金=常に守り
- 株=常に攻め
という二分法は機能しなくなっています。
結論
金銀相場の乱高下は、安全資産の性質が変質したことを示しています。
短期的には投機資金の影響を強く受け、株式市場と同方向に動く場面も増えています。
安全資産としての役割は、価格安定性ではなく「制度不安への備え」という長期的な機能にあると再認識する必要があります。
資産形成において重要なのは、
金を神格化することでも、否定することでもなく、
- なぜ持つのか
- どの時間軸で持つのか
- どの程度持つのか
を明確にすることです。
市場が荒れているときこそ、「安全資産」という言葉の意味を冷静に問い直す必要があります。
参考
日本経済新聞「金銀相場、テック超す乱高下 投機マネーが流入 色あせる『安全資産』」2026年2月14日夕刊
シカゴ・オプション取引所公表資料(変動性指数関連)
BCAリサーチ公表レポート(2025年後半資金フロー分析)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

