海外口座や海外不動産、海外法人持分を保有している場合、「遺言だけで足りるのか」「信託を併用すべきか」という論点が生じます。
国際相続は、
・相続税
・現地法手続
・遺産分割紛争
が交錯する分野です。
本稿では、国際相続と信託を組み合わせる設計の考え方を整理します。
なぜ「信託+遺言」が検討対象になるのか
1 相続発生後の空白期間を埋める
海外資産は、名義変更や手続に時間がかかることがあります。
信託を活用すれば、
- 受託者が管理を継続
- 口座凍結リスクの軽減
- 現地対応の迅速化
が期待できます。
2 管理と承継を分けて設計できる
遺言は「誰に渡すか」を定める制度です。
信託は「誰がどう管理するか」を定める制度です。
海外資産では、管理と分配を分離して設計する意義があります。
設計パターンの整理
パターン1:管理型信託+遺言
海外口座や海外不動産を信託財産とし、受託者に管理権限を付与。
最終的な帰属は遺言で指定します。
適するケース
- 高齢で管理能力低下リスクがある
- 相続人が複数で紛争予防が必要
パターン2:持分信託型
海外法人持分を信託に組み込み、受益権を段階的に移転。
経営承継と資産承継を一体で設計します。
注意点
- 現地会社法との整合
- 税務上の帰属整理
が不可欠です。
パターン3:換価前提型
海外不動産や流動性の低い資産を信託管理下に置き、売却後に分配する設計。
納税資金確保と分割紛争回避を両立させます。
税務上の確認事項
1 所得の帰属
信託財産から生じる所得は、受益者帰属が原則です。
国外財産調書や所得税申告との整合を確認します。
2 相続税評価
信託財産であっても、実質的帰属に応じて相続税評価対象となります。
「信託に入れれば相続財産から外れる」という整理は成立しません。
3 贈与税リスク
受益者変更や将来受益者の設定は、贈与税課税対象となる可能性があります。
設計段階で整理が必要です。
国際的視点での注意点
1 現地法の承認
日本法の信託が現地でどのように扱われるかを確認します。
特に不動産や法人持分は、現地登記制度との整合が重要です。
2 二重課税の可能性
信託構造によっては、
- 日本での課税
- 現地での課税
が交錯する可能性があります。
事前試算が必要です。
中小企業オーナーの場合
オーナー経営者は、
- 自社株
- 海外子会社
- 個人海外資産
が複雑に絡みます。
信託設計では、
- 経営権の安定
- 相続人間の公平性
- 納税資金確保
の三点を同時に満たす必要があります。
信託は目的達成のための道具です。
設計時の実務チェックリスト
1 海外資産の一覧化
2 現地法の確認
3 税務帰属の整理
4 遺言との整合
5 納税資金試算
6 相続人への説明
単独制度で完結させないことが重要です。
結論
国際相続において、信託は有効な選択肢となり得ます。
しかし、
- 税務
- 現地法
- 事業承継
を横断的に整理しなければ、かえって複雑化します。
重要なのは、
・信託は管理のための制度
・遺言は帰属のための制度
と位置づけ、役割を明確にすることです。
海外資産を持つ経営者ほど、単発的な対策ではなく、全体設計としての信託活用が求められます。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
